第79話 クロノスVSシュエリー 後編2

 転移魔法はMPを多く使うけど、ここまで最小化すれば……。


「ハハハ! そんな小さい魔法陣で何ができんだよ! いくぜおらぁ!」


 クロノスは再び翼を仰ぎ、槍のような羽を飛ばしてくる。

もう、まだなの!

早く燃えてちょうだい。

私(シュエリー)は魔法陣を維持しながらそれを避けるが、次弾の土の攻撃を額にかすった。

頭の風船も破けてしまい、残り1つになる。


「シュエリーちゃん、残るは右肩の紙風船1つとなってしまった! 差が開きすぎて逆転不可能か?」


「いや、あれ見ろよ!」


 観客の誰かが空へ向かって指をさした。

ふふふ、やっと燃えてくれたわね。


「あぁ!!! あづぃ!!!」


「おーっと! バロニカ(クロノス)の身体が炎に包まれてるぅ!? これは一体どういうことだ!」


 ふふふ、太陽の光を小さな穴へ通した。 ただそれだけのことよ。

グリフォンの巨体は燃え盛りながらもゆっくりと下降し、地上に着地した。

人魔一体を解除し、水魔法で火を消す。


 なるほどね、勝てないと思ったけどまだ勝算はありそうね。

恐らくだけど、人魔一体はモンスターの素の攻撃方法とその採血した個体が覚えている魔法しか使えないのね。

だからわざわざグリフォン状態を解いて、水魔法を使わなきゃならない。

それなら、モンスターについて知っていれば、事前に攻撃を予測してカウンターを仕掛けられるってことか。


 私は、再び懐から血の入った瓶を取り出すクロノスに注視した。


「イラつくなぁ。天才魔法使いは俺だけで十分なんだよ! なのにテメェ、ガキのくせによぉ!」


 彼は親指で押し倒すように瓶を破壊した。

同時に砕けて尖ったガラスに親指を刺し、血を垂らす。


「おーっと! 今度はリザードマンに変身したぁ!」


 リザードマン、生息域がこの国の周辺にはない。

足がとてつもなく速いってことは本で読んだことあるけど、それ以外の攻撃や魔法は未知数。

とりあえず、スピードを見切れるように距離を取ろう。

私は転移魔法で距離を取り、さらに足元に同じものを展開した。

MPは消費するけど、攻撃のタイミングで転移すれば避けられる。

......と、思っていた。


「かはっ」


 距離をとって、魔法陣を展開して1秒も経過しない間にそれは起こった。

腹に蹴りを入れられ、私の身体は僅かに浮いた。

そして、間髪入れずに連打を喰らって朦朧とした。


「ハハハ! 割らなきゃゲームは終わらねぇからな! 気絶するまでボコボコにしてやるから覚悟しろや!」


 視線を一瞬地面に落とすと、何故反応できなかったか理解した。

こいつも足に魔闘器をはめていたからだ。

リザードマンの素のスピードにこれが加われば、初手で反応するのは難しい。


 腹部の痛みはもう限界を超えて何も感じなくなっていた。

だけど、頬や足、腕などに新たに加えられるダメージによって意識は何度も戻される。

そのたびに痛みを感じては、なくなるのを繰り返した。

地面に殴り落され、私は敗北を実感する。


「おい! 風船もう破裂してね?」


 あぁ、落とされた衝撃で最後のが壊れたのね。


「もう勝負は着いたので、バロニカさん」


 審判員たちが駆け寄り、抑えようとするがクロノスは私の首を絞めてくる。


「ハハハ! どうでもいいんだよもう! 死ねやシュエリー!」


 私は目を閉じて覚悟した。

スマインにも勝てなかった私が、この国一番の魔法使いとここまで渡り合えるなんて悪くはない。

本当は優勝して村人だろうと私は強いと証明したかった。

けど、ここで負けても十分善戦した方だろう。

カリナ......あなたのことが心配だけど、後はあいつに任せるわ。


「おい、もう勝ったんだからやめろよ」


 そう、このどこか抜けてて頼りなさそうな声。

それでもいつも、誰かが危ない時は助けてくれる。

崩れ落ちそうになる私の身体は、いつのまにか逞(たくま)しくなっていた腕に支えられていた。

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