第40話 シュン、冷ややかな目を向けられる。視点、シュン

 俺は調子こいてかっ飛ばす、と言ってしまったことをかなり後悔した。

理由はこの魔闘器で、3人も連れながら飛行なんてしたことないからだ。

1人での操作を慣れるのに手間取ったのに。

みんなの自重が曲がる度にあっちこっち行くから、支えるためにどの方向へ力を加えればいいか全くわからない。


「ちょっとシュン、もう少し上手に飛んでくれないかしら? さっきもう少しで尖がった岩にぶつかりそうだったのだけど?」


「初めてなんだから無理言わないでよ。それよりミリアさん、巣穴はあとどのくらい?」


 ミリアさんの方へ目をやると、とても青ざめていた。

応えようと口を開きかけるが、すぐに両手で塞いでいる。

どうやら酔っていてダメらしい。

うーん、速度を落としてもいいんだけど敵と遭遇したら攻撃が当たる可能性があるからなぁ。


「シュンさん、これをどうぞ。この洞窟の現在地を感覚ですが印ました」


 そういうと無表情ではあるけど、どこか落ち着いた顔のカリナさんはそっと地図を渡した。

この地図、たぶん俺たちを殺そうとした時のだよな多分。

いいや、そうだとしても渡してくれたってことは今はそんな気がないんだ。

あるならとっくに再会してすぐ狙っただろうし。

それに...。


「ちょっとカリナ! くっつきすぎじゃない? 暑苦しいわよ」


「私は問題ありませんシュエリーさん」


「あなたじゃなくてわ・た・し! もういいわよ」


 敵対してたとは思えないほど、カリナさんがシュエリーさんにべったりくっついている。

俺が来る前に何か打ち解けるやり取りでもあったのだろう。

って早く地図見なきゃ。

えっとぉ......は!?


「目の前じゃねえか!」


 どうする? 急停止しても巣穴にいるゴブリンキングたちに捕まっちまうぞ?


「馬鹿! なにしてんのよシュン!」


「シュエリーさんがカリナさんと遊んでるからでしょ! もっと遠い時に教えてよ」


「あ、遊んでるように見えるのこれが!」


 シュエリーさんは顔色ひとつ変えず、絡みついてくるカリナさんを引き剥がそうと苦戦していた。


「てっ、話してる場合じゃないって! ぶつかるぞみんな!」


 壁に衝突することを覚悟した俺たちだが、その心配はいらなかったようだ。

転移魔法陣に接触すると輸出している側の場所へ転送されるらしい。

先ほどいた洞窟のような入り組んだ狭い空間ではなく、だだっ広い洞窟に来た。


ところで、倒れ込んでいながらなんでこのような冷静な判断をしているかお気づきだろうか?

それは、3人の女の子たちの下敷きになっているからに他ならない。


「シュエリーさん、落ち着いてねぇ。これは不慮の事故だから」


 3人の中で一番俺の身体に接触面積が大きいのはシュエリーさん。

覚えのある慎ましい胸の感触と体温、それだけではなく今回は頬に唇が当たっている。

彼女の金色の髪が時折鼻にかかって、くすぐったさと同時に理性という盾を槍で突かれる。

あと少しで重なるところであったが、なんとかそれは免れたようだ。

悲しいようなよかったような、複雑な気持ちになる。


「いやぁ! シュンにキスしちゃった私、いやぁあ!」


 シュエリーはパニックに陥り、上体を起こす。


「いひゃい!」


 彼女の後頭部は更に覆いかぶさっているミリアさんの鼻にクリーンヒットし、ドミノ倒しのように事故は連鎖をし始めた。

ミリアさんは打たれた衝撃により、上半身を落とした。

いかん、彼女の胸がちょうど股間に当たって大変よろしくない感じに。

「耐えるんだ俺!」と頭の中で何度唱えただろうか?



「んっ。シュンさん」


 その詠唱はことごとく破壊されていく。

カリナさんは俺の右腕に跨るように倒れていたからだ。

彼女のふとももに挟まれた拳を開こうとすると、必然的あれにぶつかってしまう。

俺の今の状況を一言で表すならこうだろう。

H面楚歌(えちめんそか)...と。

こんな造語を作り出してしまうほど、俺の脳は沸騰しかかっているんだ。

早くどいてくれ頼む3人とも。


__1分後__


「シュン早く起きなさい、大変なところに来ちゃったみたいよ」


 3人は何事もなかったかのように立ち上がり、周囲を見渡していた。

俺はというと、うつ伏せになり息子が収まるまでうずくまった。

ちくしょう、冷静にならなきゃいけないのに興奮が一向に静まる気配が見えない。

とりあえず、カタツムリになりながら俺も周囲を見渡した。


「みなさん、恐らく数千はいますよこれ」


「じょ、冗談言わないでよミリアさん。こんな数のゴブリンキングがいるわけ...」


 そう口走ってしまうほど現実的ではないその群れの規模に、俺たちはただ愕然と眺めるしかない。


「シュンさん、魔法陣の方からも来ていますよ!」


 カリナさんの指した方へうずくまりながら身体を移動させると、あの洞窟にいたゴブリンキングたちが流れ込んできていた。

どうやら俺たちの後を追った様子。


「どうやら本当に万事休すって感じね」


 シュエリーさんの言う通り、逃げ道も塞がれたこの危機的状況。

こんな最悪な状況であるにも関わず、息子が縮こまるという朗報が俺の身体は知らせてくる。

立ち上がることはできたものの、3人の女の子に冷ややかな目をされてしまった。

あぁ、俺だけさらに悪化した環境に身を投じている。

こんなかっこ悪い醜態をさらして死ぬわけにはいかない。

汚名返上をなんとしても考えなくては...。

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