第28話 カリナとシュエリー、入浴する。視点、カリナ

 私は監視対象の2人になぜか連れまわされ、現在ここにいる。

あまり干渉するのは良くないが、暗殺の命が下ったときのために弱点を探る必要がある。


「シュン、部屋に行く前にお風呂借りてもいいかしら? カリナさんと一緒にね」


「え? いいけどぉ、期待しないでよ家のは」


「入れればいいのよ。シュンのせいで服濡れてるしね。じゃあねぇ」


 風呂!?

数日ぶりの風呂!?

まさか、監視対象に数日ぶりの入浴をもらえるとは思いもしなかった。


「ふふん、カリナさん少し良い表情になったわね」


「あっ...ごほん。そうですか?」


 しまった、少し口角が上がっていたか。

私はすぐに表情を戻し、気持ちを整える。


「あーあ、さっきの方がかわいいのに。まあでも、ピコンピコンってその長い耳が跳ねてるのもいいわね」


 耳が跳ねてる!?

気づかなかった、耳に私の感情が漏れていたとは。

私はシュエリーを睨んだ。


「ごめんなさい。悪く言ったつもりはないわ。酒場で迷惑かけちゃって何かお詫びできないかなと思ってね。ようやく喜んでくれたからつい」


 シュエリーははにかみながらそう話した。

く、魔法の威力はシュンの方が上だが、この女の洞察力もなかなか侮れない。

注意して今度はこちらが情報を引き出さねば。


◆◇◆◇◆


 考えていたら脱衣室に来てしまった。

そこで私はまたしても問題に直面していることに気づく。

この身体を見せるわけには...いかない。

しかし、タオルを巻いて浸かるのは同姓同士、流石に怪しくなる。


「カリナさんどうしたの? 早く脱いで、浸かりましょうよ」


 そういいながらシュエリーは徐々に自身の服を脱いでいく。

ついに裸のシュエリーとまだ服を着たままの私という状況が完成してしまった。


「カリナさん、あなたもしかして...」


 あぁ、服を脱がずにいるままも怪しく見えるな。


「風呂嫌いなのかしら?」


「え?」


「実はね、私がシュンの実家でお祝いの続きしようって思ったのは、カリナさんがその...少し臭いがしたからなのよ。

多忙でお風呂に入れないのかなぁって思ったんだけど、違うみたいね」


「ちがっ私は別に...」


「別に?」


「風呂は嫌いでは、むしろす...好き」


「じゃあほら、脱ぎなさいよ」


 待ちくたびれたのかシュエリーは強硬手段に出て、私に飛びついた。

しまった、身体を見られるわけにはいかない。

こうなれば仕方ない、こいつを気絶させて逃げっ...。


「カリナさん、あなたどうしたのその...いや」


 小刀の柄でシュエリーの頭を突こうとしたが、もう意味がないようだ。

私のイヴァンに躾けられた傷だらけの身体を、彼女に見られてしまった。

シュエリーはすぐに私の身体から離れる。

これで私がただ者ではないことがバレた。

またイヴァンに叱られるなこれは。


「カリナさん!」


 なんだ?

この女、離れたかと思えばまた私に抱き着いて来た。

まったく、何を考えているのかわからん。


「離れてくださいシュエリーさん、脱ぎますから」


 そういっても、彼女の力は弱くならない。


「カリナさん、もし...困っている事があるならいつでも相談して! 力になるから」


「なん...はぁ?」


 何を言っているんだこの女は。

会って間もないただの他人にどうしてそこまで、私が何か見返りでもすると思っているのか?


「脱げません、シュエリーさん」


 二度目の言葉でようやく、小さな両腕は抱き着くのをやめた。

シュエリーはゆっくりと後ろ歩きしながらも、心配そうにこちらを見つめる。


「な、なんでシュエリーさんはそこまで私に良くしてくださるんですか? 酒場で迷惑をかけたとはいえここまで」


 私は何を口走っているんだろうか。

こんなこと、監視対象の情報を引き出し報告するのが今の私の使命。



「私も1人で冒険者をやってきたからわかるのよ。

女1人で他に頼りにできる存在がいないことの大変さがね」


 それだけで知り合ったばかりの相手にここまでする人間がいるというのか?


「さ、行きましょカリナさん。背中、流してあげるわよ」


「いや、私は別に1人で」


「いいから! ほら」


 誰かと共に風呂に入るのは、何年ぶりだろうか?

いや思う出すのはよそう、村は最初から無かったんだ。

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