第14話 イヴァン、スマインを破門しFランクに降格させる。視点、イヴァン

 私の名前はイヴァンだ。

この国の王兼、勇者族の族長カエサル様の命でギルドのランク制度を作り上げた。

その功績により、国民だけではなく貴族のほとんどは私に頭を下げる。

職のない者でもクエストを達成すれば報酬が貰えるとあってこの国の救済制度...と、建前上は成っている。

実際は全然違う、がはは!


「入れ!」


 今日はギルドに所属するある貴族が、失態を犯したというのでこの私自ら処罰を下す。

私は長い顎髭を触りながら、報告書を読んだ。

ふむふむ、なるほど。


「カリナ! 私に茶を持たぬか!」


 私は報告書を丸め、ダークエルフのカリナの頭を強く叩いた。


「はい。かしこまりました」


 全く、気が利かぬペットだ。

私は裸のまま茶を持ってきたカリナをしばらく睨みつけた。

おっといかん、この男に尋問せねば。

私はコホンと咳をした後、口を開いた。


「スマイン君だっけ?」


「は、はい。この度はなんの要件でしょうか、イ、イヴァン様」


「昨夜、町内で騒ぎがあったのを知ったいるかい? 君が現場にいたと聞いたので事情を聞きたくてね」


 スマインは先程までの動揺ぶりから少し落ち着き、目を逸らしながら応える。


「あ、俺は。いや、私目が通りかかった頃には男女が揉めておりました。

私は魔法を使うわけにはいかず、2人をなんとか仲裁しようと割って入ったんですが、運悪く頭を打ってしばらく気絶しておりました。

病院に運ばれてから覚めたのでそれ以降は私も知るよしがないというか、そんなところです」


「ガハハハ! そうですか、わかりました。もう結構です、下がりなさい」


 はぁ、素直に報告すれば恩赦で軽くしようと思ったのだがなぁ。

私はカリナに指で指示をした。


「な、なんだよ! 奴隷だろお前、またイヴァン様に叱られるぞ。そこをどけ」


 カリナは表情ひとつ変えず、淡々と言葉を発した。


「お帰りの前に冒険者バッチをこちらと交換ください」


 スマインは、カリナから差し出されたバッチを叩き落とした。


「それはFランクのバッチだろうが! なんでAランクの俺様のバッチがこんなしょぼいのと交換しなきゃならねぇんだ。

まったく、茶の件という使えなそうなやつだな。

気色悪い耳しやがってクソ女が」


 私は思わず高笑いした。

まったく、状況を飲み込めない無能は実に滑稽だ。


「スマイン君、私はねぇ嘘つきは嫌いなんだよ」


「どういうことですか? イヴァン様」


「私はすでに、君が子分と呼んでいる者たちからの情報が耳に入ってる。

この報告書でね」


 私が投げ捨てた報告書を読んだスマインは、目を見開いた。

そしてすぐさま目の前で膝を着いた。


「申し訳ございません! その報告書通り、村人の家を襲いました。

ですがどうか、降格だけは許してください!」


「スマイン君、君は何も分かっていないようだね。

今回の君の罰の原因は2つだ。

1つは私に虚偽の報告をしたこと。

もう1つは、貴族でありながら村人冒険者ごときに負けたことだ!」


「ですがそれは、あいつが並外れた強さだったので」


 ふん、此奴はまだ言い訳をするか。

この程度の罰では足りないようだ。


「カリナ、こいつからバッチを取れ」


「はい、かしこまりました」


 スマインはカリナの手を薙ぎ払った。


「触るな奴隷ごとぎが! 痛い目見たいのか? あぁ!?」


 スマインがジャブを放とうとしたその時、カリナは腰の小刀を素早く抜いた。

そして、魔法陣が展開すら出来ない速さで小刀をスマインの首元に突き立てる。


「な、なんだこいつ。クソ早え」


「なんだスマイン君、君は学もないと見える。

ダークエルフは生まれたまもない時、胸に魔法石を埋め込むんだよ。

そして、その魔法石は身体能力を常人の数倍に高めることができる。

君のような馬鹿力で戦ってきた脳筋ファイターが、勝てるわけないのだよ」


 スマインはそのままカリナに床に押さえつけられ、バッチを奪われた。


「よくやったカリナ、だがもう少し早くしろよ」


 私はバッチを渡してきたカリナの腹を蹴り飛ばした。


「ぐぁい」


 ふ、床にこうも人が情けなく倒れていると無様すぎて滑稽だな。

そのくせ懇願してた顔から今度は私を睨め付けるようになった。

はぁ、愉快愉快。


「スマイン君、君の無様な姿は貴族の恥さらしだ。

君の父は君と縁を切ると言っていたよ。

私がここで反省の意があるならお諌めしたかったんだが」



「は? 親父がそんなこと。

て、待てよ! 冒険者ランクもFに降格でおまけにき、貴族じゃなくなるって言うのか俺は!」


「うんそうだ。

ギルドを辞めさせないだけありがたく思え」


「ふ、ふざけるなくそ!」


 ふん、もう貴族でもない雑魚が私に襲いかかるか。


「カリナ、そいつをつまみ出せ」


 スマインはカリナによって気絶させられ、屋敷の外へ捨てられた。

う〜ん、これで貴族権威は維持できた。

Fランクと村人冒険者ごときに負けた貴族がいると噂が立てば、貴族の強さの象徴であるランク制度に疑問視が持たれる。

やっと掴んだこの地位を雑魚のせいで台無しにされたら溜まったものじゃないからな。


「終わりましたご主人様」


 にしても、一つ気がかりが残るな。

スマインを倒した2人、のちに脅威になるやも知れん。


「カリナ、お前に任務を与える。これからいうターゲット2名と接触し、行動を逐一監視するのだ」


「はい、かしこまりました」


 膿は徹底的に叩き出さねばな、ガハハ!

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