第9話

 「俺の願い・・・」


 そんな事を、思いだしながら考えているレッド。だが、まだ迷いがあった。本当に優勝して、魔騎士をやめるのかと。


 「考えても仕方ないか」


 開き直ったレッドは、テーブルのトロピカを再び持つと、一気飲みをした。


 「そう言えば、次はもう準々決勝か」


 予選Aブロックの出場者は、全部で十六人。シードがいないので、一回戦闘に勝利すれば、準々決勝になっている。


 次レッドが戦うのは、今戦っているフェンリルかオラシオンのどちらかだ。


 この大会の面白いところは、相手が分からない事。戦闘上にお互いが入らない限り、相手が知らされていない。なので、事前に作戦なども立てられない。だが、一流の魔騎士であれば、作戦などなくても、十分に戦えるものだ。


 「そうだ。鍛冶屋いくか」


 レッドは、この大会が武具変更可能な事を知っているので、モンスターの素材はたまっていたが、なかなかアグルを強化してなかったので、ナイトキャッスルにある鍛冶屋に向かった。


 会場をでたレッドは、愛用の巨大バイクに乗り、スピード違反ギリギリで走って行った。


 さっき素材といったが、モンスターには二種類存在する。


 それは、死体が残るか残らないかである。基本的には、死体は残るのだが、グロルなどの一部のモンスターは、死体になると闇に包まれて無くなってしまう。


 この、闇に包まれるモンスターは、亜騎士の頂点、コードネーム ダークが作った者だと言われている。


 だが、レッドは闇に包まれるモンスターにあまり会わないので、関係ない事だった。


 なので、素材も死体が残るモンスターの物だ。


 アグルの素材は、鉄鉱石なのどの鉱物はほとんど使わず、鉱物に匹敵するほどの堅い鎧の持ち主のイブリ―スと呼ばれるモンスターの、鱗などを主に使われている。


 イブリ―スは、伝説級のモンスターだが、実力のあるレッドが倒すには、そう難しい事ではない。


 「ん?」


 バイクのバックミラーを見たレッドの目に映ったのは、狼型のモンスターの大軍だった。


 「なんで、街に?」


 モンスターは、街以外の草原や山などのバトルフィールドに存在する。自分たちを殺す人間の近くに、わざわざ行くモンスターはほとんどいない。何度か、巨大なモンスターが人間が暮らしている所に侵入した事はるが、大勢の力で全て防いでいた。


 「ガルルルル」


 歩道にいる人や、車に乗っている人などは、そのモンスターに気付き、叫び声をあげ逃げていく。


 だが、モンスターは真っ直ぐ、バイクに乗っているレッドに向かってきていた。


 「何なんだ?」


 レッドはバイクのアクセルを切り、スピード違反でもかまわないから、百キロほど出した。


 だが、モンスターたちもスピードあげてきて、今にも追いつかれそうだった。


 「だったら」


 マックススピードまで出したレッドは、少し切り離すと、グルッと反回転して、襲いかかってくるモンスターの方を、バイクの正面にした。


 「ガルルル」


 「行くぜ!」


 バイクを左手で片手運転し、右手で鞘にしまってあるアグルを抜き、モンスターたちに走って行った。


 モンスターたちも、向かってくるレッドに襲いかかって行った。


 そして、レッドはアグルで全てのモンスターにアグルを切りつけた。まさに神業。


 「グルルルウ」


 モンスターたちは、悲鳴のように泣き叫び、闇に帰って行った。


 「闇?ダークのか。だが、なぜ俺を狙う?分からないな」


 さっきのモンスターたちは、亜騎士 ダークが作り出したものだった。だが、レッドを狙った理由は不明だ。


 レッドは、取りあえず再びバイクを回転し、ナイトキャッスルに向かっていった。


      *


 「よ、隼人」


 ナイトキャッスルに着いたレッドは、すぐさま自室に戻り、素材が入っている宝箱のようなものを思っていき、鍛冶屋を営んでいる、従弟の大門字 隼人のもとにいった。


 ここは日本なので、魔騎士以外の人は、十通の日本の名前だ。


 鍛冶屋は、ナイトキャッスルの一回の右はじにあり、一つの家ほどの起き差で、鉄と硫黄のにおいがする。暑さも、鍛冶職人かここにきてなれている魔騎士でないと、耐えられないだろう。


 「今日はなんだ?レッド」


 「アグルを強化してほしい」


 そう言って、先ほど使ったアグルをさやから取り出し、レッドと隼人の間にある鉄のカウンターに置いた。 


 「分かった。炎属性も加えるか?」


 武器は、ある段階まで強化されると、モンスターなどが使う攻撃の、属性というものを取り付けられる。強化したものや、上物じゃないばあい、属性に耐えられず壊れてしまう。


 「ああ。これ、好きに使ってくれ」


 そう言って、巨大な箱をアグルの隣に置いた。


 「ああ。できるだけ強化していいんだな?金は高くつくぞ」


 「金ならある」


 「時間は?」


 隼人は、レッドが大会に出ている事を知っているので、次の試合までに出来上がらせないといけないと思い、聞いた。


 「いや、確か今日は思う試合はない。明日までにできれば十分だ」


 「オッケー。じゃあ、やっとく」


 そう言って、隼人は箱とアグルを同時に持つと、鍛冶屋の煙の中に消えて行った。


 「よし、買い物でもするか」


 レッドは、アグルと素材を預け、市場に出かけた。


 「何買うか。まずはトロピカだな」


 トロピカが三度の飯より好きなレッドは、腹が減っているよ言うのに、フルーツジュース専門店に向かった。


 「おっちゃん。トロピカ、一つくれ」


 フルーツジュース専門店の屋台の店の前に来たレッドは、メニューを一切見ないで、トロピカを頼んだ。


 「あいよ」


 そう言って、屋台の主人がいい、すぐさま作ってくれた。


 「いくら?」


 「百二十円」


 「あるかな」


 よりについている小さなポーチを探り、財布を出して、小銭袋を覗き込んだ。


 「あった」


 そう言って、レッドは小銭を取り出して、カウンターに出そうとした時だった。


 「グルルルル」


 なんと、何所からともなくモンスターの雄叫びが聞こえた。


 「何だ?」


 レッドはすぐさま、声の方を向くと、さっきのモンスターと同じ、狼型のモンスターだが、三メートルほどのモンスターが、市場のど真ん中に存在した。


 「きゃあああ」


 そんな声とともに、すぐさま市場の人たちは、裏の道に逃げて行った。


 「おっちゃん。おいとくぞ」


 レッドは、カウンターにお金を置き、トロピカを受け取ると、武器を持たないまま、モンスターに向かっていった。


 「狙いは俺だろ」


 「グルルルル」


 向かってくるレッドに気付いたモンスターは、巨大な二つの前足で地面を蹴り、レッドに飛びかかってきた。


 「く!」


 レッドは、モンスターが飛びかかってくると、サッカー選手のような見事なスライディングをして、モンスターの腹の下を通り、後に回った。


 「こっちだ」


 スライディングの体制から、起き上がったレッドは、モンスターとは逆方向に逃げて行った。


 「ガッルルルウルル」


 巨大な雄叫びをあげたモンスターは、逃げるレッドに走って行った。


 「はあ、はあ」


 レッドが、いくら足が速いかと言って、鎧を着ているので、スピードと体力が落ちて行った。


 「グルルルウ」


 距離が十メートルになると、モンスターは再び走ったまま飛びかかってきた。


 「くそ」


 左にレッドは急カーブし、裏路地に入って行った。


 「皆、もっと逃げろ」


 モンスターが通れない細い道をレッドが走っていると、逃げ惑う人々が見えたので、非難を呼び掛ける。


 レッドは裏路地を抜けると、隣の市場に入り、そこにはモンスターが待ち構えていた。


 「ち」


 舌打ちをしたレッドは、モンスターが待ち構えてない方に逃げていく。


 モンスターも、全力で襲いかかってくる。


 「あった」


 走っているレッドが見つけたのは、ナイトキャッスルの駐車場に置いてある、バイクだった。


 それに急いで乗ると、鍵を入れ、トロピカを持っているので片手で運転して、すぐさま駐車場から出て、モンスターから再び逃げて行った


 「これで、おしまいだ」


 マックススピードで走っているレッドは、後から追いかけているモンスターの方を、反回転して向いた。


 そして、さっきのモンスターの大軍に突っ込んだように、巨大なモンスターに走って行った。


 モンスターも勢いをつけ、レッドに走って行った。


 「そりゃあああ」


 バイクに乗っている途中で、バイクから落ち、バイクはクラッシュしながらモンスターに滑って行き、モンスターにぶつかると爆発し、モンスターもろとも焼き尽くした。


 そして、炎が巻き上がる中、それを包むように闇が現れ、炎が消えたと思ったら、モンスターの死体も消えていた。


 「ダークか。なぜ、ダークが?もしかして、何かをたくらんでいる?これは序章に過ぎないのか?」


 レッドは亜騎士 ダークのことを悩みながらも、手に持っているトロピカをのんだ。

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