第3話 魔法
ぼたは日がな一日墨を擦って暮らしていた。
そんなとき里山から野菜売りがやって来た。
「茄子と蕪はいらんかえー」
「いらん、いらぬ」
と断ったのだが、野菜売りは妙なことを言う。
「茄子と蕪をこうてくれたら、おまけに魔法をつけるでー」
とな。この魔法は一回だけ願い事を叶えてくれると言う。
「かか様、一生食べるのに困らない金子を出してもらいまひょ」
ぼたは丸い頬を紅潮させ眼を輝かせた。
「いえ、いえ、そないなことにつこうてはつまりませぬ。折角なので、今宵、お城で催される歌会へ、そなたが行けるようにしてもらいまひょ」
ぼたの肩にぼたの薄汚れた赤い手拭いをかけ、蕪一個と茄子二本を地面に並べ、天秤棒を振り回しながら野菜売りは何やら呪文を唱えた。
すると、あら不思議。
蕪は駕籠に、茄子は駕籠かきに、ぼたは煌びやかな着物を纏ったえも言われぬ美女に変身した。
お城での歌会は若殿様のお世継ぎを成す女人を探し出すための催しで、国中の年頃の娘が集められた。
しかし、それはぼたのためのものだったと言っても過言ではなかった。
若殿はぼたを一目見るなり虜になり、その上、文字までが美しいとあってはもう夢中にならずにはおられなかった。
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