日曜日 その六

太陽は東から顔を出した。この世に存在するすべての暗闇をかき消すかのように。


僕はゆっくりと目を開けてみた。最初に見えたのは葉月の顔だ。心配の色がありありと見える。僕は今、葉月の膝に頭をのせて、横になっている。砂の感触が気持ちよかった。葉月の膝から伝わってくる体温もなんだから暖かくて、心を落ち着かせた。よくみると、両肩はまだ白い光に包まれている。完全に回復できていなかったみたいだ。


「体、どう?」


葉月の問いに何か答えようとしたけど、声が出ない。意味不明の声が僕の喉を通って、外にでた。


「焦らないで、このまま休んでいてると少しずつ回復するから」


葉月の話を聞いて、僕はまた目を閉じた。彼女が優しく僕の髪を撫でた。僕はすぐ眠りに入った。


海を照らす太陽は、大地を照らす太陽よりも熱い気がした。肌が焼けている感じがしたので、再び目を開けた。


今回は起き上がれた。声も出そうな気がした。


「僕、どれぐらい寝た?」


声は確かに出たけど、小さくて葉月が聞き取れたかどうか心配だ。幸い、葉月には聞き取れたみたいだ。


「ずいぶんと寝た。体はもう動けるはず」


「そうみたいね。ありがとう、葉月」


葉月は何も言わず僕を見つめた。両目が潤んでようにも見えた。


僕は昨日、自分が運転士のおたまじゃくしに操られたのを思いだし、自分の体をみた。やはり、傷口は見えない。


「寝てる間、治した」


僕の顔に浮かんだ疑問を見た葉月が答えてくれた。


「でも、無理はできない。一時的の手当だから」


「うん、わかった」


葉月はまだ何かを言おうとしたがやめた。


「警察が来る前に早くここから離れないと」


僕が言ってから遠い地平線をみたら、もう人集りができていた。どうやら、死体からずいぶんと遠い所に、僕と葉月がいるみたいだ。


「まず、家に帰ろう」


葉月の提案に、僕はうなずいた。


昼になったので、バスも、タクシーも道を走っているのが見えた。


僕と葉月はバスに乗って家に向かった。


傷のせいか、体に力が入らない。


バスに乗った僕らは一番後ろの席に座った。坐るなり、僕はまた眠ってしまった。


葉月に体を揺られて、僕は目を覚めた。寝れば寝るほど体力が戻ってくるのを感じた。バスのアナウンスを聞くと、あと三つのバス停を通ったら家の近くのバス停につく。


バスから降りて、僕と葉月家に向かった。今日はとてもいい天気だ。


「腹減ったので、何か食べようか?」


僕が聞くと、葉月は僕を体をソファーに座らせ、厨房に入った。どうやら、冷凍食品を温めてくれるらしい。厨房で料理をしている葉月の後ろ姿を見たら、この瞬間が止まってくれればいいなあ、なんてことを考えてしまった。


葉月はギョーザを盛った皿をもってリービングルームに戻った。


冷凍ギョーザのいい香りが胃袋の食欲を刺激した。


僕は箸も使わず素手でギョーザを摘まみ、口へ運んだ。でも、葉月は何も食べていない。


「食べないの?」


葉月はうなずいた。


ギョーザを全部食べると、葉月は何かを言いたげなそぶりを見せた。


「どうしたの?葉月らしくない」


そう、葉月らしくない。言いたい事はずばりという性格だ。しかも、核心だけを。


「教えなくてはいけない事がある」


改まった葉月の口調に、僕まで緊張してきた。


「あなたはもう死んだ」


「えぇ?!」

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