土曜日 その七

葉月について夜の街を歩いていると、パトカーが街道を駆けてどこかへと消えた。


「何が起きたのだろう?」


一人つぶやいていると、葉月にも聞こえたらしい。


「事件なら、黒魂かもしれない」


「そうね、じゃ調べてみるね」


僕はさっそく携帯から必要の情報を検索してみた。


海岸娯楽施設で殺人事件が発生した。殺されたのは夫婦で、頭と四肢がそのままもぎ取られて即死した。むごいことに、小さな子供が死体の傍で気絶した。子供が犯人の顔をみたと警察たちが判断し、病院に運んで保護している。


このことを葉月に話すとそこへ向かうといった。


「じゃ、タクシーでも拾って向かおう。歩いて行ける距離ではないから」


僕らはすぐ一台をタクシーをひろうことができた。タクシーに乗って、運転手に目的地を教えた。殺人事件で騒がしい海岸娯楽施設になぜ行くかといういぶかし気な表情がバックミラーから窺われた。が、何も聞かずにタクシーを出発させた。


タクシーはアスファルトの道を奔っている。クーラーは効いているのに、暑苦しく感じるのはなぜだろう。何か言って、この情況を打ち破りたいけど、運転士の視線が気になる。


もちろん、僕を見るのではなく、葉月を見る視線がやらしいので、注意してみたいけど、葉月はそんなの気にしていないようだから、僕も黙ったまま、心の中で、運転士を呪い殺した。


一人、くだらない事を考えて、自分で自分の気持ちを害するのは、僕の悪い癖の一つである。


こうするうちに、タクシーは目的地に到着した。


タクシーから降りようとすると、運転手は名刺を一枚差し出した。


「次にもし車を使うことがあるなら、僕に電話をかけてくださいね。光速より速く迎えにいくから」


僕は答えせず、名刺だけ受け取って、車から降りた。なんかいやな予感がした。僕も葉月も答えなかったので、運転手はもう一度話した。もちろん答えなかった。彼の舐めるような視線がとても嫌いだ。


タクシーから降りた僕らを向かえたのは、涼しい潮風だ。


犯行現場はどこなのか探すこともなく、ひと目で分った。


だって、一箇所だけ人集りができているから。パトカーは赤い警告の明かりをみせびらかしながら、ちかづいてはダメと教えているみたいだった。


僕と葉月はまっすぐその場所に向かって歩いていった。犯行現場らしき場所の周りにはバリケードテープで区切られた。


一番外側にいる人々は、中を見ようと、つま先で立って、必死に首を伸ばしている。


僕らはこの集りの中を縫って近付けるのは、とてもできなさそうだったので、それ以上近寄らなかった。


少し時間が経つと、人集りの中から、一人が吐き出された。


僕と葉月は近寄って中の様子を尋ねてみた。自分の見た事を自慢したそうな顔をしたので、よかった。見た事をべらべらと話してくれた。


「酷いとしかいえないね。大人二人の頭は身体の横に転がり落ちていたよ。警察が話しているのをちょっと小耳に挟んでみたらなんと、首は強い力でそのままねじ取ったらしいよ。そんな事の出来る犯人がいるのかな。恐ろしいよね。本当かどうかは分らないけど、あなた達は見ないほうがいいよ。まあ、今頃、死体は警察がなんとかしたと思うけどね」


「大人二人の関係はやはり夫婦ですか?」


携帯で調べたことをもう一度確認のために、尋ねた。


「そうよ。それにね、二人には七歳の男の子がいたってね。かわいそうに、死体となった親の傍で気絶していたのをだった今病院へ連れて行ったのよ。あの子が犯人を見たのかもしれないけど、犯人より、親が目の前で殺されたのがショックでしょう。それからが心配だよね」


この人はまだ何かをしゃべろうとしたが、僕と葉月は用事があるといって、離れた。


二人になってから、僕は葉月に聞いた。


「これからどうするの?このあたりで黒魂を捜すの?」


「黒魂の気配はする。でも、もうここにはいない」


「じゃ、町に戻ってみる?それとも黒魂の気配をたどってみる?」


葉月は犯行現場を見つめた。


「まだ、戻ってくるかもしれない」


葉月は 近くにあるカフェーを指さした。そこで待ってみるつもりだ。僕の葉月はカフェに入り甘くて冷たい飲み物を頼んだ。


窓際の席に座って遠くに見える事件現場の様子をうかがった。時間が経つと、警察たちも、人集りもどっかへいちゃったので、僕と葉月は店を出た。


事件現場の周囲に張られたバリケードテープの近くに行くと、残って現場を守る警察が感情のこもってない声で、近づいてはいけません、と声をかけてくれた。僕と葉月はただ見ているだけだと分かってからは、気にもしなかった。


死体はもう運ばれ、地面には血の黒い後が見受けられる。一面に広がった血の跡を見ると、おのずと死体の様子が頭の中に浮かんできた。身震いをし、頭を振ることで、その映像を振り落とそうとした。


もうこれ以上見ても新しい発見がないか、葉月は現場から離れて歩きだした。僕はすぐ後ろをついて行った。



これから何をするかも分らず、ただ黙って歩いていると、向こうから一人の男の子が視野に入ってきた。一人で、砂で遊んでいる。真っ黒な水着を着て。

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