水曜日 その三
僕の質問に、少女はゆっくり顔をそらし、窓から空を眺めてから、再び僕を見つめた。顔には悲しみの影かさした気がした。
「かぐや姫の物語は知っている?」
なぜか『かぐや姫の物語』の話が出たかしらないけど、ついに本題に入ったと思った僕はわかると軽くうなずいて見せた。
「かぐや姫は月へ行ってからずっと後悔した。人間と恋をしたかった。けど、月に着いた以上、どうしても逃げる事ができなかった。いろんな方法を確かめてみたけど、全部成功できなかった。そこである日、引力の事を知ったかぐや姫は最後の機会とわかって賭けてみることにした。かぐや姫は自分の魂を月に注ぎ込んた。完全なる魂は地球に吸い込まれないと分ったかぐや姫は、魂をいくつかに分けた。かぐや姫の思おうとおり、一つ一つの魂に対する月の制約が弱くなって月の引力から解放され地球に戻ることはできた」
「じゃ、君はかぐや姫の分身の一人?」
「そう、そのとおり。しかし……」
「しかし?」
少女はジュースを飲んでから話をつづけた。
「しかし、予想外のことが起こった」
「予想外のこと?」
「12人の魂に分けられた分身は一つに戻ることはできなかった。家具や姫はせめて、自分の分身たちだけは幸せな恋をしてほしいと願った。それが私とほかの分身が地球に来た目的」
今までずっと、クールな表情を一貫した少女の顔に黒い影かさした。
「それじゃおととい、全員来たの?」
「全員きた。でも、みんなばらばらの場所であらわれた」
「あなたもこれから自分の恋を見つけるに探しまわる?」
少女は黙った。答えたくないことだろうと思って、僕は話題を変えた。
「でも、かぐや姫は結構昔の物語だよ。今ときになって地球にくるなんて、なぜなの?」
「来たのは今回が初めてじゃない」
「えっ?!初めじゃないなら、今まで何回来たの?」
「何回か来た」
そっけない答えに、僕は別の質問をした。
「いくつかに分けてしまった魂は全部、自分の恋を見つけるの?」
「違う。最後に好きな人間と寿命がおわるまで生きれるのは、一人だけ。他の魂は月に戻って次の機会を待つしかない。恋人と一緒になった分身も、恋人が死んだら再び月に戻ることになっている。みんなと一緒に次の機会を待つ」
「最後に人間と恋をする人が一人ってどういうこと?」
「たぶん、月の呪い。幸せになれるのをみるのがこころよくなかったから」
「なら、どうやって最後の一人が決めるの?」
「戦いできめる。最後まで勝ち残った分身が好きな人と暮らせる」
ここまで言って少女は立ち上がった。
「行こう」
「どこへ行くの?」
「違う世界を見せてあげるから」
少女はすたすたとドアに向かって歩いていった。僕は後ろについて家を出た。
街に出てから、少女と何の目的もなく、歩き回っているだけだった。いくら歩いても同じ町の景色が続くので、僕はたえられず尋ねた 。
「ずっと歩いているけど、何も変わっていないよ」
少女は何も言わないまま、僕の前で歩いている。少女の袖なしのシャツのせいか、人々の強い視線が感じる。こうなる前に、ママの服を着せておけばよかった。
いつの間にか、二人は横町に入った。薄暗い横町なので、ひょっとしたらお化けが出てこないかと、僕は少しばから怯えながらも期待していた。
「今から見せてあげる」
少女は顎で前で歩いている人を指してから、息を吸いこんだ。
息の声は低いが、狭い横町の中を響き渡った。そしたら、前で歩いた人の身体から黒魂が出てきた。成人の二倍くらいの高さの黒魂は、こっちを向けて笑った。
少女は泰然としている。
「よく見て、目に焼きつきなさい。これがあなたが望んでいた違う世界」
言葉とおりに僕は目を大きく見張っていた。しかし、巨人のような黒魂を見て、足は情けなく震えていた。
少女は一躍して黒魂の前に立ちふさがった。
黒魂は目の前にある少女を見て、口を開けた。口の中からは大きな黒い手が早いスピードで少女に向かった。少女は驚きもしなく、避けようともしなかった。
黒魂の大きな手は少女の腰を掴んで自分の顔まで持ち上げた。
「出て間もなく、おいしいデザートが食べれるって、俺ってついているな」
くすくす笑っている黒魂を目の前にしても、少女は怯む様子はなかった。
黒い手は少女を掴んでだんだん口に近づかせた。その時、少女は話した。
「私はお前のような雑魚黒魂に食べれるほど弱くない」
少女は再び息を吸いこんだ。すると、黒魂は渦巻きながら、少女の口に吸い込まれた。黒魂が消えて、少女は飄々と舞い降りて僕に振り返った。
「どう?違う世界を見た感想は」
僕は力を振り絞って、足を立たせた。
「怖い物しか見えなかったけど……」
少女は僕に歩み寄って、無表情な顔で僕に言った。
「これが違う世界の本当の姿」
少女はあざけるよう表情で言葉を続けた。
「美しくロマンティックな世界が目の前に広がるとでも思っていた?甘い考えは幼稚園児だけの特権だけど、あなたがそんな甘たるいことを考えるとは思わなかった。いい年して」
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