後ろの正面、その証明

その一


「秋の歌って何かあるかな?」

 夜、逢坂真琴おうさかまこと花川鞠乃はなかわまりのの部屋にいた。

 泊まりがけで遊びに来ているのだ。

 この二人の少年はそれぐらいには仲がいい。

 基本的には花川が逢坂の家に遊びに行ったり泊まったりすることが多く、今回はその逆であった。

 花川の寝転ぶベットにもたれるように座り、逢坂は部屋の隅に置かれたテレビの画面を眺めている。

 画面の中では一人称視点の射撃ゲームが映っていて、逢坂は手にしたコントローラーで自身のキャラクターを操作している。

「ねぇ、マコ? マーコー? マーコーさーんー」

 花川は逢坂の名前からとって彼のことをマコと呼ぶ。

「……リノ、あのなぁ……!」

 声に反応するように顔を向けると満足そうに笑っている花川がいる。

 中性的な顔、長く伸びた黒髪、そして髪をかけた耳には数個のピアス。

 どこか妖しげな蠱惑な笑みであった。

 その微笑みに息を呑んでいると画面の中のキャラクターに弾丸が撃ち込まれる。

 気付いた時には逢坂の操作するキャラクターは地に伏していた。

「あー……ごめんね?」

「リノ……お前……」

「ごめんってぇ」

「別にいいけど……なんだよ、急に。秋の歌?」

 こくこくと花川が首を振るとそれに合わせて長い髪がさらさらと揺れていく。

 これが横振りになると顔に髪が当たって痛いのだ。

 逢坂は花川を怒らせて時々この髪の毛の一撃を食らっている。

「あんまり聞かないよね? 春は別れとか出会いとかあるし、夏はフェス向けのとかあるしさ、冬もまぁあるじゃん?」

「……探せばあるだろ。小さい秋とか」

「探さないとないじゃん!」

 何が言いたいのかが理解出来ない。

 秋の歌がなんだと言うのだろう。

 今の時代調べれば大抵の事は分かるだろう。

「だから……だからぁ……」

 しりすぼみになる言葉。

 あぁ、なるほど、と逢坂は思った。

 言いたい事など今の花川には無いのだ。

 ただ構って欲しかっただけなのだろう、そう結論づけた。

「……はいはい」

 素っ気ない返事をしても花川は満足そうに笑っている。

 その顔を見ると、逢坂の顔も思わずほころんでしまっていた。

 我ながら、どうしようもないなと思う。

 そんな時、部屋の外から何か明るいメロディが流れてきた。

 風呂が湧いた合図だ。

「お風呂行こ」

「お先どうぞ」

「一緒に入るんだけど?」

「……はぁ?」

 何を言っているんだ、そんな顔をしている逢坂。

 さも当然のように花川は一緒に風呂に入るのだと言う。

「なに、恥ずかしがる間柄じゃないでしょ」

「……いや、だとしても風呂は一人で入れ」

「入ろうよ、背中流すよ」

「自分で洗えるぞ」

「むぅ」

 花川が座っている逢坂に顔を近づける。

 すぱぁん。

 髪がなびく、ムチのように弾かれた髪は逢坂の顔や目に叩きつけられた。

「ふんっ! ふんっ!」

「痛いだろ……やめっ……やめろ……っ、おま……分かった。入る入る!」

「分かればよろしい。服は僕の着てくれればいい」

「……サイズ合うかな」

 ベッドから降りた花川がタンスから着替えを取り出して放って部屋を出る。

 それを受け取り、逢坂もまた部屋を出た。

「……なんで急に一緒に入ろうなんていう」

「……い」

「ん?」

「……最近シャンプーしてる時、視線を感じて怖いから」

「……は?」

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異能たる子ら 鈴元 @suzumoto_13

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