【∴】結論

【∴】Keep your eyes on the stars, and your feet on the ground./Theodore Roosevelt


   星に目を向け、地に足をつけよ。




 これが流れているということは、もう僕はこの世にいないということです。


 ああ、なんだか変な感じだね。こんな言葉、おかしい気がする。自分のことを、こんな風に他人事みたいに語るのは馴染めないな。


 これを撮らなきゃいけなくなったってことはさ、天国へ行かなきゃいけなくなったってことで……要するに僕が決めたことなんだけど、なんだかなあって思うんだよ。


 もう少し生きていたかったと言っても、これ、消されないかな。消さないで欲しい。僕の最期の言葉だから、正直に、自分の心にあることを話したいんだよ。


 みんな、僕のことをどう思うのかな? バカな奴だって思う? そうだよね。うん、分かるよ。「テロリストに騙されて利用されたバカな奴」って言われるだろうと思う。同情なんてされなくて当然だ。揉め事の種を蒔いて、世界を混乱させて、迷惑をかけて、自分勝手で分別も思い遣りも無いどうしようもないクズにしかみえないよね。うん、実際そうなんだから、非難されても仕方ないって思うんだ。僕みたいな迷惑な奴は死んで当然、いやむしろ死んで償うべきだと言う人もいると思う。憤りは当然です。


 実際に、僕みたいな奴が関わって紛争が起こっているし、テロを起こす奴もいるし、犠牲者が出れば、それは本当に酷い悲劇だと思います。罪の無い人の命がテロによって奪われるなんて、やっぱり許されないことだと思います。それと同じように、これを見ているあなたたちが容認した攻撃で誰かが死ぬことも許されないことだと思って欲しいと思うんだけど……ああ、話がズレてしまったかな。なんだか議論でも吹っ掛けているみたいになってしまったね。今はそんなことしたくないんだ。ただ、話さなきゃ……


 この一年ちょっとの間、いろいろなことがあったよ。


 仲間も出来たし、親しい人も出来た。けど、言えないことも多い。なんというか、難しいね。まあ、とにかく、言えないことが多いんだ。


 だから、自分のことを語るよ。


 ラティファ、まずは君に謝らなくちゃ……何も言わずに出てきてしまって、ごめん。トモには、二度と帰れなくてもいいって虚勢を張ったけど、本当はすぐ帰るつもりだったんだ。半年か一年……そういうつもりで、甘く考えてた。


 心配かけたよね?


 そう言えば、僕は君にきちんと愛してるって言ったかな?


 ラティファ、僕を愛してくれてありがとう。君は世界一素敵な女性です。美人だし、優しいし、頭も良くて、セクシーで、最高の女性だ。君の左頬のほくろ、すごくチャーミングだよね。僕は君のほくろにキスするのが大好きだった。君の作ってくれる料理も大好きだった。珍しいレシピばかりだったけど、なぜか懐かしくて、沁みたよ。


 許されるならプロポーズしたいんだけど、もう無理だよね。僕のことは忘れて、もっと良い奴と結婚して、どうか、世界一幸せになってください。


 ラティファ、愛しています。君は僕の生涯ただひとりの恋人です。


 君と、もっと一緒にいたかったのに、どうしてこうなってしまったんだろう?


 僕は何を間違えたのかな? どこから僕はダメだったんだろう? このことを考えると、胸が苦しくなるよ。息が出来ないような気分になる。ロンドンにいた頃から、いつも考えていたよ。どうして僕は恵まれた家庭に生まれたツイてる奴ら(ラッキー・フェロウズ)みたいにハッピーじゃないんだろう、どうして僕には夢を持つ機会すら与えられないんだろうって。


 僕の不運も不幸も珍しいものじゃない。ありふれていて取るに足らない、どこにでもある、誰にでも起こり得る、語るに値しない、ただの貧乏人の身の上だ。


 高嶺の花の金髪の女の子に失恋したことも、勉強する金も機会も無くて学位を得られず挫折したことも、夢を持てなくてつまらないゴミ集めの仕事に就いたことも──ごめん、ボスには感謝しているし、マスードと一緒にいるのは楽しかったんだけどね、やっぱり夢は持てなかったんだ──家庭が最悪だったことも、ママが麻薬中毒者になったことも、ママが変態のクズ野郎に殺されたことも、ママに愛されなかったことも、すべて、なにもかも、どこにでもある珍しくもない不運と不幸だ。


 ただ、僕はイギリスというキリスト教徒の国でアラブ系の移民三世として生まれた。同じ時代にテロリストと呼ばれる仲間がいた。彼らの心に僕はシンクロしてしまった。


 いや、正直に言えば、そうではないのかもしれない。ただ寂しかっただけかも。誰にも顧みられず、誰にも本当には愛されず、すごく不公平だって思ったんだ。


 ラティファ、ごめん。君は愛してくれたのに、信じられなくて、僕は寂しかった。


 だから、思ってしまったんだ。


 こんな世界は間違っている。間違っているから変えなくちゃいけないし、変えられないなら壊してしまうべきだ──と。破壊の後には再生が来るものだろう? それなら、新しく作られる世界はこんなに不平等で不公平で不実な世界じゃないかもしれない。うん、きっと今よりずっと良い世界になるはずだ。


 僕はそう考えた。


 だって、仕方ないだろ。僕は、不運で不幸だった。


 ただ、幸せになりたかっただけなんだ。


 それが、不運と不幸に方向性を与えたというなら、それって、本当に酷い話だよね。


「テロリストに生まれる人間はいない」


 トモはそう言った。


 だけど……──


 僕は、差別される、排斥される、無視される、アラブ人だった。


 ねえ、トモ。君が本当に僕を思っていてくれて、今でも友達だと言うなら、僕を待っていてくれると言うなら……


「もう一度だけ、ピグレットにメールをください。君はお使いのオウルじゃない。僕を助けてくれる最高の英雄クリストファー・ロビンだよ」




   ・・・




 声が出なかった。


 送ったよ、アミン。


 僕は何度も君にメールを送った。


 どうか届きますようにと、祈りながら、何度も送ったんだ。




   ・・・




 My old silly friend Amin, all love gave to you without leaving it over.


 How I do love you.




(愚かで愛しい我が友アミン、僕の愛は余すことなく君にあげたよ。


 どんなに君を愛しているか……)






   FIN


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僕はテロリストじゃない THEO(セオ) @anonym_s

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