準決勝 零ゲーム

第44話 退屈する少女

 窓から射す紅い月光が、カードを摘む少女の指先を照らした。


 積み上げられたトランプタワー。その頂点を飾るハートのA、そしてジョーカーの2枚を慎重に合わせる。


 少女の爪の先が離れたとき、骨組みだけのピラミッドは静かにその形を保った。

 少女の目線とほぼ同じ高さ。大作の完成だ。


 しかし。

 作り主である少女に表情はなかった。

 なんの感情も見せることなく、ぼうっと、目前にそびえる大三角形を見つめていた。


 そのとき、部屋にノックの音が響いた。

 少女は小さな唇を開いて、「どうぞ」とひとこと、入室を認める声を返した。


「失礼いたします」


 甲高い音を立てて金属のドアノブが回る。

 姿を見せたのは、黒いスーツを身に纏う少女の付き人だった。


「お戯れの最中に申し訳ございません。

 選抜ゲームの舞台が整いましたので、報告に参りました」


 少女の付き人は直立の体勢で言葉を発した。


「お嬢様もご覧になりますか」


 その問いかけに小さく頷く少女。付き人は「かしこまりました」と恭しくお辞儀をして、部屋を去った。


 付き人の背中を見送ると、少女は無表情のままカードのタワーをつついた。


 崩れたカードが音もなく散らばる。

 少女はカードの絨毯を素足で踏みつけながら、ぺたぺたと、薔薇の装飾が施された扉に向かって歩いた。


 そうして今宵の見世物が催される席へ向かう。


 赤い光に照らされたジョーカーの札が、そんな少女の背中を見送っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る