440話 昨日は素敵な夜だったね、ハニー

 チュンチュン。

 小鳥の声が聞こえた。

 窓から朝日が差し込んでいる。

 俺はベッドの上で目を覚ました。


「むっ、朝か……。気分爽快、気持ちのいい朝だな!」


 シルヴィの『絶対零度』により風邪をひいた俺だが、しっかりと寝て元気になった。

 昨晩リンに病人食を食べさせてもらったのも大きいだろうし、その後に”発散”したのも大きいだろう。


「…………」


「おっ、リンか。おはよう。昨日は世話になったな」


 俺はリンに話しかける。

 彼女は俺の隣で、うつ伏せで眠っているようだ。

 全身に様々な液体や汁が付着しており、昨日のプレイの激しさを物語っている。


「…………」


「リン? どうかしたのか? 体調でも悪いのか? まさか、また風邪をうつしてしまったとか!?」


 風邪をひいている状態の俺とたくさん致したのだ。

 うつしてしまっていても不思議ではない。

 だとすれば、非常に申し訳ないことをした。


「…………」


「おーい。とりあえず返事だけでもしてくれないか?」


 俺は彼女に優しく触れる。

 よく見れば、全身に付着している液体や汁の中に、赤色の液体もある。


(これは……ひょっとして血か?)


 マズいぞ。

 まさか、吐血してしまったのか?

 あるいは、俺が激しいプレイを強要してしまったせいで、例えばベッドの角に体をぶつけて出血したのかもしれない。


「おい! 大丈夫なのか!?」


 俺はリンに覆いかぶさるようにして抱きついた。


「ううん……」


「起きてくれ、リン。一体何があったんだ?」


「えっとぉ……」


「おお! 起きたか! 頼む、教えてくれ。俺はどうしたらいい?」


「言いたいことはたくさんありますがぁ。まずはですねぇ……」


 リンが口を開く。

 ん?

 リン?

 いや、彼女は……。


「ワタシはお姉ちゃんじゃありませんよぅ。ルンですぅ」


「…………そう……だな……」


 俺の全身に冷や汗が流れる。

 よく見れば、彼女はリンの従姉妹のルンじゃねーか!

 いくら夜中でよく顔が見えず、しかも風邪で意識がもうろうとしていたとはいえ、なんてことを……。


 今からでも謝るべきか?

 だが、『お前の姉であるリンと間違えて犯してしまっただけで、本来はお前に興味などない。俺の女にする気はないから、自由に生きるがいい』とでも言うのか?

 むしろ、その方が余計に傷つくんじゃないか?


 いかん……。

 頭が混乱してきた。

 こういうときは――


「昨日は素敵な夜だったね、ハニー。改めて見ても、君はとても可愛いね」


 俺は優しく彼女を抱きしめながら囁く。


「は、はいぃ……。コウタさまも素敵でしたぁ」


「君の身体も最高だったよ。これからもよろしく頼む」


「こちらこそですぅ」


「愛しているよ、ルン」


「ワタシもですぅ。コウタさまぁ」


 よしっ!

 何とかごまかせたぞ!

 こうして、俺は安堵の息をついたのだった。

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