424話 来訪者はリン?

 深夜に目覚めた俺は、腹が減っていた。

 誰かを起こすのは申し訳ないと思っていたところ、ベッド脇のテーブルにメモと魔道具を見つけた。

 その魔道具を用い、連絡して待つ。


(さて、誰が来ることやら……)


 有力候補は、素の口調が丁寧語のエメラダとネリスだ。

 しかし、メモへの書き言葉は、普段の口頭での言葉遣いとは異なる可能性もあるだろう。


「はぁ、はぁ……」


 俺は自分の息遣いが荒いことに気がついた。

 別に、興奮しているわけではない。

 風邪がぶり返してきているのだ。

 そうこうしているうちに――


「失礼いたしますぅ」


 扉の向こう側から声がかけられる。


「……ああ」


 俺は熱にうなされながらも、かろうじて返事を返す。

 すると、静かにドアが開けられた。

 入ってきたのは、予想外の人物だった。


「コウタさまぁ。お加減いかがですかぁ? お食事をお持ちしましたよぉ」


 兎耳の少女が、トレイの上にスープを載せて運んでくる。


「ありがとう。リン」


 俺はそう礼を言う。

 暗くて顔はよく見えないが、この兎耳と声質は間違いなくリンだ。

 俺たち『悠久の風』で、兎獣人はリンだけだからな。


 それに、料理と言えばリンだ。

 他の者も簡単な料理くらいは作れるが、やはり本職であるリンには及ばない。

 俺の夜食を作るために、頑張って起きていてくれたのだろう。


「昼間も病人食を作ってくれていたよな。つらいとき、お前がいてくれて本当に助かった」


「えっとぉ? 昼間に作っていたのはワタシじゃなくて、お姉ちゃんじゃ……」


 リンが何か言っているが、上手く聞き取れない。

 思ったよりも重病だ。

 まぁ、最低限俺からの感謝の気持ちが伝わればそれでいい。


「すまん、会話は後にしよう。今は、料理をもらえないか?」


 俺はそう言う。

 とにかく、腹が減って仕方がない。

 様々な上級ジョブを持つ俺は、強靭な肉体と、それに付随した凄まじい抵抗力や自己治癒力を持っている。


 だが、それも無から生えてくるわけではない。

 当然、栄養を摂取する必要がある。

 魔力的なものであれば、空気中に漂う魔素を皮膚から半自動で吸収することでもある程度は賄える。

 しかし、風邪に対する自己免疫となると、ちゃんとした食事が必要だ。


「わかりましたぁ。どうぞぉ」


「ありがとう」


 俺は病人食をリンから受け取る。

 そして、自分でスプーンを手に持ち、料理を口元へと運ぶが――


「はぁ、はぁ……。くそっ、うまく運べん……」


 本当に、栄養が不足している。

 さすがの俺でも、ガス欠ではどうしようもない。

 これは弱ったぞ……。

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