422話 アルヴィン様

「おおぅっ!」


 俺は思わず悲鳴を上げてしまう。


「ふははっ! 油断しましたね!」


「…………」


「さしものAランク冒険者といえど、急所への攻撃はひとたまりもないでしょう! これでアルヴィン様にお褒めいただけ――」


 ネリスが何かを言っているが、俺はそれどころではない。

 俺は各種のチートスキルにより、とても順調に成長を続けている。

 複数のジョブがかなりの高レベルにある俺の体は、引き締まった筋肉、頑強な骨格、溢れ出る魔力、豊富な闘気など、非常に恵まれたものとなっている。


 だが、さすがに無敵というほどでもない。

 昨日もシルヴィの『絶対零度』で凍らされてしまって、こうして風邪をひいているわけだしな。

 つまり、何が言いたいのかと言えば――


「ネリス……」


「――ッ!? な、なぜ平然として――」


 ネリスは体をビクつかせながら、ベッドの上で後ずさりする。


「なかなかやるではないか! いい力加減だよ。思わぬ快感だった!!」


「は?」


「お前の舌の感触は素晴らしかったのだが、少し物足りないとも感じていた。それが、仕上げにまさか歯を用いるとはな。いやあ、実に見事な一撃だった」


「まさか……。信じられませんわ」


 ネリスが驚愕している。


「いったい何を驚いているんだ? お前が創意工夫で俺を楽しませてくれたんじゃないか」


「ええと……。その……」


「俺は嬉しいよ。ここまで俺のことを想ってくれて」


「……はい。お褒めいただき、光栄です」


 ネリスは笑顔を浮かべるが、その表情はどこかぎこちない。


「そ、それでは、あたくしはこれで――」


「あっ、そうそう」


 退出しようとするネリスを、俺は引き止めた。


「ひぃっ!!」


 ネリスがビクつく。

 何をそんなに驚いているんだ?


「先ほど、何か口走っていなかったか? 確か、アル何とか様に褒めてもらえるとかどうとか……」


「……い、いいえ。何も言ってはおりませんが」


「……そうか。ならいいんだ」


 俺は首を傾げた。

 風邪で頭がよく働いていないし、どうやら聞き間違いか何かだったらしい。


「ご主人様ぁ。早くいっしょに寝ましょうよぉ……。すやすや……」


 隣で寝ていたシルヴィがそんな寝言をこぼす。


「ああ、ともに休もう。シルヴィ」


 俺は風邪を治すため、シルヴィとともに深い眠りに落ちたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る