310話 真空パックで圧縮された布団

 エルカ迷宮の深層部にて、安全に寝るための前準備をしている。


「……えっと。主様、それって……」


「ああ、布団だよ」


 俺はそう言いつつ、ストレージに収納していた布団を出す。


「本当に布団なの? なんだかずいぶんと薄いね?」


 ユヅキは不思議そうに首を傾げている。


「これは真空パックだな。密閉された袋に布団を入れて空気を抜くことで、とてもコンパクトになるんだよ。この布団も、もとは大きかったんだぜ」


 俺はそう説明する。

 俺のストレージの容量はかなり大きいが、無限ではない。

 布団のように、あまり出番がない物に関しては体積を減らして収納しておくのが大切だと思ったのだ。


「へぇー。面白いですね!」


「そんな技術があったとは、初耳なのです」


 シルヴィとミナが目を輝かせている。


「今、膨らませるところを見せてやろう」


 俺はそう言うと、真空パックの空気口に手を入れる。


「【エアバースト】」


 俺は風魔法を発動し、中に空気を注入する。

 布団がみるみると膨らんでいく。

 10秒ほどで元のサイズに戻った。


「へへっ。これはすげえな!」


「……コウタちゃんは何でも知っているんだね……」


 リンとティータが感心したような声を上げる。


「いや、何でもは知っていない。知っていることだけ知っている」


 俺は照れて、どこかで聞いたことのある言い回しでごまかしてしまう。


「さすがはコウタ親分だぜ!」


「素晴らしいですわね」


 グレイスとローズが褒めてくれる。

 嬉しい。


「ふぅ……。これでいいだろう。みんな、順番にこの中に入ってくれ」


「……分かった。まずはティータが入るね……」


 ティータが真っ先に布団の中に入っていく。


「あっ。ずるいですよ、ティータさん!」


「あたいも入りたいぜ!」


「……早いもの勝ち。ふかふかなので心地いい……」


「いや、ふかふかなのはいいんだが、そっちじゃないんだ」


 俺はティータに声を掛ける。


「えっ?」


 彼女がこちらを見る。


「俺が言いたかったのは、こっちの真空パックだ。この中に入ってほしい」


「……ふぇ?」


 ティータが理解不能といった表情を浮かべた。


「少し特殊なプレイでな。真空パックプレイというのだが……」


「……ティータには理解できない世界。ここはシルヴィちゃんやリンちゃんに代わってもら……」


「ダメですよ! ご主人様の頼みです!」


「シルヴィっちの言う通りだな! ここで退いたら女がすたるぜ!」


「……うぐっ。む、むしろ退かないと女としてマズイ気がするのに……」


「問答無用なのです! 早く入るのです!」


「一番乗りはティータの姉御に譲るぜ!」


「ちょっ……。押さないで……。あうっ……」


 ミナとグレイスがティータを真空パックに押し込んだ。

 さあ、特殊プレイの時間だ。

 ……間違えた。

 さあ、新たなジョブを取得する時間だ。

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