308話 強制転移

 シルヴィとの熱い夜から1週間ほどが経過した。


「よし。今日も5階層を探索していくぞ」


 俺はみんなに声を掛ける。

 いつも通り、俺、シルヴィ、ユヅキ、ミナ、リン、ティータ、ローズ、グレイス、エメラダの9人体制だ。


「かしこまりました!」


「はいなのです」


「頑張りましょう」


「……えっと。あたしも頑張りますね」


 それぞれが元気よく返事をしてくれた。


「では行こう」


 俺たちはダンジョンの探索を開始する。

 5階層の探索もある程度慣れてきた。

 魔物自体の強さは、4階層までと大きくは変わらない。

 違うとすれば少し厄介なトラップが仕掛けられていることだが、この1週間でトラップへの警戒心も強まり、そうそう罠には引っ掛からないようになった。


「順調だね」


「へへっ。ガンガン行こうぜ!」


 ユヅキとリンがそう言う。


「そうだな。だが、トラップの警戒は怠るな」


 ここのところ、ずっと同じパターンで探索が続いている。

 そろそろ変化があってもおかしくない。


「ご主人様。前方に宝箱がありますよ」


 シルヴィの言葉を受けて俺は前方を確認する。

 確かに宝箱があるようだ。


「よし。まずは俺とグレイスが行く」


 俺はそう言って宝箱に近づく。


「うむ……。特にトラップなどはないようだ」


「そうだな。拘束系や爆発系のトラップはねえ」


 グレイスがそう断言する。

 彼女が宝箱を開ける。

 すると……。


 ガタッ。

 突然、背後で音がした。

 振り返ると、ダンジョンの通路に壁が現れている。


「なんだ!?」


「ご主人様! 床が光っています!」


 シルヴィが叫ぶ。


「なにっ!」


 俺は慌てて視線を下に向ける。

 確かに床全体が青く発光している。


「これは……転移魔法陣か!」


 俺はそう叫ぶ。

 ダンジョン内のどこかに転移させられてしまうというトラップだ。

 宝箱自体にではなく、床にトラップが仕掛けられていたため、見落としてしまった。

 俺は急いで仲間たちの元へ戻る。


「マズイぞ! みんな、手を繋げ!」


 俺はそう叫んで右手を伸ばす。

 俺の伸ばした手に全員の手が重なる。

 そして……。

 ブゥン……。

 視界が激しく揺れた。


 次の瞬間……。

 シュパッ!

 気が付くと、目の前に広い空間が広がっていた。

 天井は高く10メートル近くあるようだ。


「ここは……?」


「……分からねえ。おそらく、ダンジョンの中だろうが……」


 グレイスはそう言うと、周囲を見回す。

 俺もそれにならった。


「……どうなってんだ? なんにもねぇぞ?」


 リンは不思議そうな顔をする。


「いや、待て。ここから上に伸びる階段が見える」


 俺は上を見つつそう言う。


「これはおそらく、ダンジョンの奥地に転移させられてしまったな」


 MSCでもあったタイプのトラップだ。

 頑張って地上まで戻る必要がある。

 なかなか骨が折れそうだが、みんなと力を合わせればなんとかなるだろう。

 ここが踏ん張りどころだ。

 気を引き締めることにしよう。

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