242話 グレイスの冒険者登録

 黒狼団を冒険者ギルドに引き渡し、報奨金を受け取った。

 これで身軽になった。

 最優先の用事は済んだことになるが、他にも済ませておきたい用事はある。


「他に何かあるのかね?」


「実は、この子のパーティー登録をしてもらいたくてな」


 俺はそう言って、グレイスを前に来させる。


「ほう。新進気鋭のBランクパーティ『悠久の風』に仲間入りするとは、その子も将来有望だな」


「はっはっは。まあ、そういうことだな」


 グレイスの正体が、黒狼団メンバーのグレイであることはバレていないようだ。

 まあ、バレたらバレたで、やりようはあるだろうが。


 俺はアイゼンシュタイン子爵家の入婿になる予定だし、ドラゴンスレイヤーのBランク冒険者でもあるからな。

 地位はそれなりに高い。

 いざとなれば、『英雄』のスキル【アクセル】を使えば、実力行使で逃げることも可能だ。


「よし! 私が責任をもって、彼女の登録をしてやろう」


 ギルマスがドンと胸を叩く。

 普通は受付嬢がやる仕事だが、別にギルマスがやってもいいのだろう。


「えっと、名前はなんていうのだ?」


「おう。俺は、グレイスだ」


「なるほど。グレイスちゃんか。新登録の女の子にしては、なかなかしっかりしていそうな顔付きじゃないか」


「へへっ。ありがとよ!」


 グレイスが得意げにそう言う。

 彼女は黒狼団の一員として活動していた。

 アジト周辺の安全確保や食料調達のために、狩りをよく行っていたそうだ。

 そのため、そこそこ腕も立つ。


「……ん? 名前がグレイス。それにその顔は、少年に見えなくもないな……」


 ギルマスがグレイスの方を見る。

 少しマズいか?

 新登録の冒険者グレイスと黒狼団の少年グレイが同一人物だとバレると、色々と面倒になりかねない。


「あー……。よく言われるんだよ。こいつは男っぽい顔をしているけど、女なんだぜ」


 俺がそうフォローを入れる。


「そ、そうなのか? しかし……」


 ギルマスがなおも疑いの目を向ける。


「ああ! もう! うっせぇな! 俺は正真正銘の女だっての!」


「お、おい! あまり大声を出すな!」


 俺が慌てて止めるが、時すでに遅しだ。


「…………」


 ギルマスが鋭い視線をグレイスに向ける。


「ぐっ……。コウタ親分、こいつぶっ飛ばしていいか!?」


 グレイスが悔しそうにそう言う。


「ダメに決まっているだろう……。お前が騒いだせいで、ギルマスが怪しんでしまったぞ」


 俺たち『悠久の風』はBランクパーティだ。

 ある程度の組織や権威へは対抗できる。

 ただ、冒険者ギルドの上層部の心象を悪くすることは避けたい。


「改めて言うが、こいつは間違いなく女だ。今、証拠を見せてやろう」


 論より証拠。

 俺は一計を案じ、グレイスの後ろに回ったのだった。

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