226話 殺すか生け捕りか

 カイゼルの処分をどうするか考えているところだ。

 殺した方が確実なのだが、生け捕りにして引き渡した方が報酬金が少し多くもらえる。


「はっ! 舐めやがって。俺を生け捕りにするだと? いずれ隙を見て脱走してやる! そん時はお前を殺すぞ!」


 カイゼルが威勢よく吠える。

 街の衛兵に引き渡した後、そう簡単に脱出できるとは思えないが……。

 ここまで恨まれては、少しの不安が残るな。


「やはり、ここで殺しておくか」


 殺してから引き渡しても、もちろんある程度の懸賞金は受け取ることができる。

 生け捕りの方が多いのだが、差はそれほど大きくない。

 目先の金よりも、今後の安心の方が大切だ。


「や、やれるもんならやってみろ!」


 カイゼルは挑発するように言った。

 だが、少し声が震えている。

 それはそうだろう。

 彼の腱は切っている。

 まともに身動きが取れないはずだ。


 その状態で、よく啖呵を切れたものだ。

 さすがは盗賊団の頭領。

 度胸だけはある。


 俺は感心しつつも剣を抜き放つ。

 無造作に距離を詰め、剣を振り上げた。


「あばよ」


 俺はそう呟き、剣を振り下ろそうとする。


「ちょっと待ってくれ! コウタ親分!」


 突然、グレイスが叫んだ。

 彼女は俺の腰に飛びつくようにして抱きついてくる。


「止めるな、グレイス」


 俺はそう言って、カイゼルの首筋に刃を当てようとした。

 だが、彼女はなおも俺に縋り付く。


「カイゼルは俺の恩人なんだっ! 世間的に悪党なのは間違いないが、殺すのだけは勘弁してくれっ!!」


 必死の形相で俺に訴えかけてくる。


「ふん。そうだなあ……」


 カイゼルはそこそこ強いが、Bランク冒険者である俺の敵ではない。

 生かしておいても、極端なリスクがあるわけではない。

 殺す理由に乏しいのは確かだ。


 しかし、殺さない理由にも乏しい。

 カイゼルを生かしておけば、また別の誰かに危害を加えるかもしれない。

 グレイスを取り返そうと、あれこれ画策してくる可能性もなくもない。


「そうだな。グレイスの態度次第では、考えてやってもいいぞ」


 俺はカイゼルの首筋に当てていた剣を下ろした。


「本当か!? ありがとう、コウタ親分っ!!」


 グレイスが満面の笑みを浮かべる。


「ああ。グレイス、お前は俺の女だからな。可愛い奴め」


 俺はグレイスを抱き寄せると、頭を撫でる。


「うん……。嬉しい……」

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