224話 コウタ親分

 カイゼルにトドメを刺そうとしたところ、グレイスが戻ってきた彼をかばった。

 シルヴィやユヅキ、ピュセルやヤナハはいっしょに戻ってきていないようだ。

 彼女の独断か。


 黒狼団メンバーは全員が戦闘不能だし、ゴブリンどもは息絶えている。

 今この場にいて意識が明瞭なのは、俺、グレイス、カイゼルの3人だけである。 


「グレイス! そのコウタとかいう男を殺せ! 俺を助けろ!!」


「こ、殺す? さすがにそれは……」


 グレイスは俺とカイゼルを交互に見ながら戸惑っている。

 俺はそんな彼女にゆっくり近づいた。


「今後、俺のことは『親分』と呼べ。昔の男を忘れられるようにな」


 グレイスは黒狼団でそこそこ大切にされていたようだし、未練が残るのは良くない。

 その辺りもケアしてやる必要があるだろう。


「わかったぜ。コウタ親分」


「それでいい」


 俺は満足げに微笑みかける。

 そんな俺たちのやり取りを、殺意を込めた目で見てくる奴がいる。

 カイゼルだ。


「グレイス! 俺を裏切る気か! 助けやがれっ!!」


 彼はグレイスに向かって叫んだ。


「カイゼル親分……。すまねえ……。俺には無理なんだ……。あんたは確かに凄え人だと思う。俺の憧れだった……」


 グレイスが泣きそうな顔で言う。


「なら助けろ!!」


「でも、無理なんだ……。だって……」


「グレイスはもう俺の女だからな」


「そっちに情けなく倒れ込んでいる男は誰だ? もう親分ではないだろう?」


 俺はカイゼルを顎でしゃくって見せた。


「カイゼルだ! ただのカイゼルだっ!!」


 よしよし。

 これで、彼女の中での黒狼団への未練が薄まるだろう。

 さあ。

 仕上げをしていくとするか。

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