207話 カイゼル親分なんて人は知らない!

 森の中で行き倒れていたグレイを介抱した。

 そして、彼を連れてアルフヘイムに戻ってきた。


「おお……。ここが親分の言っていた……」


 グレイが感嘆の声を上げる。


「この場所さえ分かれば、後は……」


「どうした?」


「いや、何でもない」


 彼は首を横に振る。


「そうか」


 気になる反応ではあるが、今は置いておくことにしよう。

 まずは、彼を里の者に紹介するのが先だ。


 俺たちは里の入り口へ歩いていく。

 すると、入り口には一人のエルフがいた。

 ヤナハだ。


「……ただいま……」


「お帰りなさいませ、ティータ様。それにコウタ殿も」


 ヤナハは丁寧に頭を下げる。


「そちらの方は?」


「森で倒れていたから助けた。魔力酔いみたいだから、多分里で休ませた方がいいと思って連れてきた」


 俺が事情を説明すると、彼女は少し驚いた顔をする。


「森に? ……それは大変でしたね」


「ああ」


「すぐに中に入れてあげてください。長老たちも許可するでしょう」


「ありがとう。助かるよ」


 これで一安心だな。


「では、私は仕事に戻りますので」


 ヤナハはそう言って去っていく。


「さぁ、行こうか」


 俺はみんなを先導して歩く。

 しばらく歩いたところで、ふと気づく。


「あれ? グレイはどこに行った?」


 先ほどまで後ろにいたはずだが。


「ご主人様。あそこです」


 シルヴィが指をさす。

 見ると、彼は一人でこそこそしている。


「なるほど……。あそこがああなって……。この情報を親分に伝えれば、殴られずに済む……」


 彼がボソボソと何かをつぶやく。

 まるで、里内部の位置関係を探っているかの様子だ。

 俺は彼に近づく。


「おい。何をやってるんだ?」


「い、いや。別に……」


 歯切れが悪い。

 何かを隠しているようにも見える。


「俺たちはあくまで招き入れてもらった身だ。あまり勝手な行動はするな」


「そ、そうだな。すまない」


 素直に謝ってくる。

 まぁ、いいだろう。


「……それより、親分とやらはどこにいる?」


 俺はグレイにそう尋ねる。


「お、親分? 何の話だ?」


 彼がそう答える。

 おかしいな?

 先ほど、確かに『親分』という言葉が聞こえたと思ったのだが。


「いや、さっきお前が言ったじゃないか。ここの地理や内情を探っているようだし。怪しいぞ」


「な、ないない。怪しくなんてないぞ」


「そうなのか?」


「ああ。カイゼル親分なんて人は知らない!」


 グレイがそう断言するが……。


「語るに落ちるとはまさにこのことですね……」


 シルヴィがため息をつく。


「その通りだ。俺たちは『カイゼル』なんて名前を出していないぞ」


「しまった! くっ……。こうなったら……」


 グレイが口をつぐみ、逃亡を図ろうとする。

 しかし、もう遅い。


「逃さないぜ!」


 リンが彼の足を払う。


「捕まえたなのです!」


 ミナがグレイを拘束する。

 ユヅキもそれを手伝っている。


「うわ! 離せぇええ!!」


 グレイは抵抗するが、ミナの怪力に敵うはずもない。

 そのままずるずる引きずられていく。


 「ご主人様。どうします?」


 シルヴィが尋ねてくる。


「そうだな……。何を企んでいるのか吐いてもらおうか」


 森で倒れていたときは、本当に体調が悪そうだったが。

 その後に悪意でも芽生えたのだろうか?

 それとも、そもそも森をうろついていた理由がアルフヘイム関係なのか?


 やはり油断はできない。

 どこに悪人が潜んでいるか分からないものだ。

 俺はグレイの尋問を始めることにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る