92話 今後の話

 ランクアップした日の夜になった。

 料亭ハーゼにて、みんなで打ち上げをしているところである。


「ああ……。やはり、リンの料理はすばらしい!」


「疲れた体に染み渡るおいしさです!」


 俺とシルヴィで、リンの料理を絶賛する。


「毎日でも食べたい味なのです」


「うん。この味なら、普段のお客さんも大満足だろうね」


 ミナとユヅキがそう褒める。


「へへっ。ありがとな。みんながリトルブラックタイガーの肉集めを手伝ってくれたおかげで、料理コンテストに入賞できた。あれから、この店の客足も増えてきているんだ」


 リンが満足げにそう言う。


「ほう。それは良かった。忙しくなるだろうが、冒険者との両立は可能なのか?」


「何とかするさ。何人か顔なじみのやつを雇ったから、人手は足りる。ある程度は料理も教えたし、あたいが不在のときでも簡単な料理を提供するぐらいはできるだろうさ」


「なるほど。よく考えているんだな」


 さすがに、不在時にずっと閉店しているのはもったいない。


「ところで、ミナさんはどうなの?」


 ユヅキがそう話題を振る。


「ボクも似たようなものなのです。領主さんの依頼を完遂したことで、一目置かれるようになったのです。さすがに、料理コンテストで上位入賞したリンさんほどではないですが……」


 ミナがそう答える。


「ふむ。忙しくなってきたのか?」


「はいなのです。でも、ボクも初めての弟子を取ったのです。まだ基礎を教えている段階ですが、ボクが不在でも初級武器の手入れぐらいなら任せられるのです」


 ミナはミナで、いろいろと考えているんだな。

 彼女たちはまだ10代のはずだが、立派に自立している。


「それはひと安心だ。それなら、ランクアップもできたしそろそろ他の町へ行くことも本格的に検討したいが……。ああ、しかしシルヴィの購入代金の分割払いが残っていたか。移動時の手続きがめんどくさいな」


 分割払いとは、つまりは借金の一種である。

 無闇に夜逃げなどできないよう、移動には一定の制約がある。

 まあ、普段から狩りで町の外には出ているので、逃げようと思えば逃げられるのだが。

 それをすると、指名手配されるリスクがある。

 合法的に移動するためには、貸主の合意や冒険者ギルドへの届け出など、いくつか面倒なルールがある。


「わたしのためにすみません……」


 シルヴィがそう謝る。


「いや、シルヴィが謝る必要はないが……」


「そうだ。いいことを思いついたぜ。コンテストで得た賞金を、コウタっちにやるよ」


「ボクもいいことを思いついたのです。領主さんからもらった報酬金を、コウタくんにあげるのです」


 リンとミナがそう言う。


「お、おお? ありがたいが、なぜだ? 相当な大金だろうに」


 嬉しい申し出ではあるが、彼女たちにムリをさせるわけにもいかない。

 詳しい話を聞いておく必要がある。

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