77話 ブラックタイガー出現

 俺たちは、引き続きエルカ迷宮の2階層を探索している。


「おっ、また出たぜ。先制攻撃は任せた。あたいの足技で追撃するからさ」


 リンが気軽な感じでそう言う。

 リトルブラックタイガーは、今の俺たちにとってさほどの脅威ではない。

 さすがにゴブリンやホーンラビットのように一撃で討伐はできないが、アクティブスキルを使用すればだいたい2~3撃ぐらいで討伐できる。


「いや、待て。あれは……」


 リトルブラックタイガー?

 それにしては大きいような……。


「マズいよ、コウタ! あれはブラックタイガーだ!」


 ユヅキが焦ったような声でそう言う。

 ブラックタイガー。

 リトルブラックタイガーの成体である。

 本来であれば、ここ2階層の階層ボスでもおかしくないような大型の魔物だ。

 なぜ、ただの道中に?


「がるる……!」


 ブラックタイガーがこちらに気づき、威嚇の声を上げる。


「ど、どうするのです?」


 ミナが俺にそう問う。

 思いがけない強敵との遭遇に、少し怖がっている様子だ。


「逃げても追いつかれる可能性が高い……。ここは、討伐するぞ! 俺たちならできる!」


 MSCにおいては、そこまでの強敵ではなかった。

 強さ順で言えば、『ホーンラビット<ゴブリン<リトルブラックタイガー<<ゴーレム<ブラックタイガー』ぐらいの感覚である。

 今までに戦った中で最強なのはほぼ間違いないが、MSCにはもっと強い魔物がうじゃうじゃいた。

 極端に恐れるほどではない。


「わかりました! まずは、魔法で先制攻撃ですか?」


「ああ。俺、シルヴィ、ユヅキで攻撃していくぞ!」


 俺はさっそく詠唱の準備をする。


「揺蕩う風の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。風の刃を生み出し、我が眼前の敵を切り裂け。ウインドカッター!」


 風の刃がブラックタイガーを襲う。

 俺の風魔法による刃で体を切り裂……いていない!?


「がるるるる!!」


 ブラックタイガーが唸り声を上げる。


「しまった。ブラックタイガーは、特に表皮が固いのだったな……」


 初歩的なミスだ。

 MSCにおいて、ブラックタイガーは中級下位ぐらいの魔物である。

 ベテランプレイヤーの俺は久しく戦っていなかったので、特性を忘れていた。


「凍てつく氷の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。氷の弾丸を撃ち出し、我が眼前の敵を撃ち抜け。アイスショット!」


「母なる土の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。土の塊を生み出し、我が眼前に落とせ。クリエイトブロック!」


 シルヴィとユヅキの魔法が炸裂する。

 こちらは、ある程度のダメージを与えることに成功している。

 しかしもちろん、階層ボスクラスの魔物を二撃で討伐することはできない。

 やつがこちらに向かってきている。


 少しマズいか?

 だが、落ち着いて対処すれば何とかなるだろう。

 絶望するほどの状況ではない。

 気を取り直して、リーダーである俺がしっかりと指揮していかないとな。

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