46話 エルカ迷宮1階層 ボス部屋へ

 5人で、エルカ迷宮の1階層を進んでいく。


「ふんっ!」


 俺の剣がホーンラビットを切り裂く。


「てえぃっ! なのです!」


「オラオラァ!」


 ミナのハンマーとリンの蹴りが、ゴブリンを撃破する。

 ゴブリンやホーンラビットごとき、俺たちの敵ではない。

 闘気やMPは節約し、通常攻撃だけで十分に戦えている。


 そのまま、俺たちは順調に歩みを進める。

 しばらくして、小部屋に到着した。

 小部屋の奥には、ひと回り大きな扉がある。


「ふむ。ここが1階層の最奥か。そうだな? ユヅキ」


「うん。僕もここまではユーヤたちと来たことがある。階層ボスには挑戦せずに、引き返したけど」


 階層ボスとはいっても、そこまで大げさな戦闘能力は持たない。

 ゴブリンやホーンラビットを安定して討伐できる者が5人いれば、問題ないレベルだ。

 『大地の轟き』の5人でも、攻略不可能というほどでもなかったはずだ。


 それなのに引き返した理由は、おそらく1つ。

 階層ボス戦は、撤退できないためリスクが高いからだ。

 この扉を開けて閉めたら、階層ボスが出てくる。

 そして、ボスを撃破するまで内側から開けることはできない。

 攻略成功か死か、ということになる。


 実は抜け道として、外側からは開けられるのだが。

 その場合、開けた者が入ることはできるが、中にいた者が出ることはできない。

 援軍には期待できるが、撤退はできないということだ。

 MSCでは、念話やクランチャットを通じて救援を求めることもあった。


「よし……。みんな、準備はいいか?」


 俺はみんなにそう問いかける。

 エルカ迷宮の1階層のボスは、ゴーレムだ。

 ちゃんと冒険者ギルドで聞いておいた。


 この5人なら、安定して勝てるはずの相手だ。

 しかし、万が一ということはある。

 もし体調不良や疲労困憊の者がいる場合は、今のうちに引き返したほうが賢明だ。

 ボス戦が始まってしまうと、逃げられなくなるからな。


「問題ありません!」


 シルヴィが元気よくそう答える。

 彼女は結構イケイケドンドンな性格だし、俺の方針に反対することもめったにない。


「僕もだいじょうぶだよ」


 ユヅキがそう言う。

 『悠久の風』の中でもっとも経験豊富な彼女がそう言うのであれば、問題なさそうか。


「ボクも体調は万全なのです」


「あたいもだぜ! ゴーレムなんざ軽く撃破して、2階層に行こうぜ!」


 ミナとリンがそう言う。

 特に無理している様子はないように感じる。

 彼女たちは臨時メンバーなのでやや肩身の狭いところだろうが、本人の性格的にも遠慮するようなタイプではない。

 彼女たちの言葉を素直に信じて問題ないだろう。


「わかった。……いくぞ!」


 ギィ……。

 俺はボス部屋の扉を開く。

 なかなか広い部屋だ。

 日本で言えば、小学校の体育館ぐらいだろうか。


 ボス部屋の奥には2階層へ降りる階段がある。

 しかし、その手前には魔法陣が描かれている。

 MSCと同じなら、通行不可になる魔法陣だ。

 階層ボスを撃破するまで解除されることはない。


 そして、その階層ボスの姿は見当たらない。

 入口の扉をまだ閉めていないからだ。

 部屋の中央やや奥に、大きな魔法陣がある。

 入口の扉を閉めれば、ここから階層ボスが出てくるはずだ。


「では……閉めますね」


 シルヴィが扉をそっと閉める。


 ゴゴゴゴゴ!

 魔法陣が点滅し、振動する。

 土の塊が隆起し、人型に形成されていく。


「きたか」


「これがゴーレム……」


 ユヅキが油断なくゴーレムを見据える。

 ゴーレムの体長は2メートルぐらい。

 それほど大きくはない。

 階層ボスとはいえ、所詮は1階層だからな。


「ピピッ。侵入者を確認しました……。排除します」


 ゴーレムの瞳に光が宿る。

 無機質な目でこちらを捉え、戦闘態勢を取る。


「相手にとって不足なし、なのです」


「おおよ。いっちょ、やってやるぜ!」


 ミナとリンがそう言う。


「よし。みんなで協力して、勝利を収めるぞ!」


 ゴーレムとの戦いが始まる。

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