38話 ミナの鍛冶場へ

 翌朝。

 シルヴィとユヅキを連れて、鍛冶屋にやってきた。

 ドワーフの少女ミナが営んでいる鍛冶屋だ。


「おおい! ミナはいるか?」


「はーい、なのです」


 中からミナが出てきた。

 赤髪で身長は140センチくらい。

 しかし年齢は10代後半である。

 10代中盤のシルヴィや10代前半のユヅキよりも年上だ。

 ドワーフという種族の特性上、身長が伸びづらくやや幼い外見をしているのである。


「よう。繁盛しているようだな」


 今この場には、俺たち以外の客はいない。

 しかし、彼女がいつも通り鍛冶に精を出していたことから、それなりに繁盛していることはわかる。


「最近は特に順調なのです。シルヴィさんがボクの武具をうまく宣伝してくれたおかげかもしれないのです」


 ミナがそう言う。

 俺やシルヴィは、有望なルーキーとしてそこそこ話題になっている。

 シルヴィが使用している武具がミナにつくってもらったものだということは、タイミングを見て宣伝している。

 その効果が多少なりとも出ているようだ。


 しかし、それはそれとして……。

 相変わらず、ミナの汗の香りはすばらしい。


 鍛冶場は暑い。

 ミナの全身は汗まみれになっており、服が汗で体に張り付いている。

 ボディラインがくっきりと浮き出ている。

 幼いながらも、出るところは出ているすばらしい体だ。

 ぐへへ。


「ミナさんの武器は使いやすくて助かってます! 防具も頑丈ですし……」


「そうだな。とてもいい買い物をさせてもらった。あのときに値切らせてもらったのが申し訳ないくらいだ」


 シルヴィの武具を買いに来たのは、彼女を奴隷として購入した直後だ。

 当然金欠だったので、ミナにムリを言って武具代を負けてもらったのだ。


「満足してもらえたのなら、製作者としてボクも満足なのです。それで、あのときのお礼に何か買ってくれるのです?」


「ああ。俺、シルヴィ、ユヅキのいずれかの武器か防具を新調しようかと思っているのだが……」


 ダンジョンの階層ボスに挑むために、少しでも戦力を増強しておきたい。

 金にも多少の余裕は出てきたことだしな。


「ええっと。コウタくんの武具は、かなり質がいいのです。それ以上となると、予算が高くなるのです。具体的には……」


 ミナが予算額を伝えてくる。


「う……。高いな。まだ手が出そうにない」


「では、シルヴィさんの武具を新調するのです? でも、少し前に買ってもらったばかりですし、もったいない気もするのです」


「それは確かに。さすがにまだ早いか」


 一般的に、武具を新調する理由は大きく2つある。

 1つは、単純な消耗。

 もう1つは、使用者の実力や資金力の向上だ。


 シルヴィは、俺の『パーティメンバー設定』や『パーティメンバー経験値ブースト』の恩恵により、かなりの成長速度を誇る。

 いずれは、今の武具で満足できないようになってくるだろう。

 とはいえ、数週間前に買ったばかりの武具を一新するのはさすがにもったいない。


「残るは、ええっと……」


 ミナがユヅキのほうを見る。

 彼女たちは初対面だったか。

 この町には他にも鍛冶屋はある。

 ユヅキたち『大地の轟き』のお得意先は、また別のところだったのだろう。


「彼女はユヅキ。少し前から、俺やシルヴィとパーティを組んで活動している。ちなみに、パーティ名は『悠久の風』にした」


「よろしく、ミナさん。僕は『大地の轟き』というパーティで活動していたけど、経験を積むために一時的にコウタたちと活動しているんだ」


「こちらこそよろしくなのです。ユヅキさん」


 ユヅキとミナが挨拶を交わす。

 年齢はミナのほうが上なのだが、ミナのほうが口調がやや丁寧だ。

 このあたりは、本人の性格や職業柄が出ている。


 冒険者は、丁寧語や敬語を使わない者が多い。

 理由は多々ある。

 いざというときに言葉遣いで迷って、魔物相手に不覚を取ることを避けるため。

 盗賊などを相手にしたときに指揮系統を把握されないようにするため。

 同業の冒険者になめられないようにするため。

 単純にそういった礼儀に疎い者が多いため。

 ……などといった感じだ。


 それに対して、ミナは鍛冶師であると同時に武具の販売員でもある。

 鍛冶専門の者であれば偏屈な頑固親父などもいるのだろうが、販売員も兼ねている彼女は初対面の相手に礼儀正しく接する。

 ある程度打ち解けてきたら、口調も少しずつ崩れてくるが。

 俺に対しても、最初は『コウタさん』呼びだったが、今では『コウタくん』呼びになっている。


「それで、ユヅキの武具を新調するのはどうだ?」


「ふむ……。ずいぶんと使い古されているのです。大切に使ってきたようですが、そろそろ交換の時期だと思うのです」


 鍛冶師であるミナがそう言うのであれば、そうなのだろう。

 ユヅキの武具を新調する方向性で話を進めてみよう。

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