20話 ユーヤの最期?

 エルカ樹海にて、クレイジーラビットの猛攻をしのいでいるところだ。

 俺やシルヴィの迎撃をすり抜けて、次々とホーンラビットがユーヤのほうに向かっていく。

 マズイ状況だ。


 俺は森の奥から新たに迫りくるクレイジーラビットを風魔法で迎撃するので手一杯。

 俺が撃ち漏らしたやつ迎え撃つために、シルヴィやユヅキたちも手一杯だ。


 森の奥から現れるペースは、徐々に落ちてきている。

 何とかもう少しだけユーヤが粘ってくれれば、彼が生還する未来もあり得る。


「く、くそおおおぉっ!」


 ザシュッ!

 ユーヤの剣が、クレイジーラビットを切り裂く。

 恐慌状態ではあるが、なかなかしっかりした太刀筋だ。

 やはり、身についた技術は裏切らない。


 だが、迫りくるクレイジーラビットを処理し切るには少し足りない。

 ドンッ!

 ユーヤの背後に回り込んだクレイジーラビットが、角で強烈な一撃を入れる。


「うごっ! く、くそっ!」


 クレイジーラビットの角がユーヤの防具を貫通することはなかった。

 しかし、ユーヤは衝撃によりそこそこのダメージを受けてしまったようだ。


 彼は何とか持ちこたえ、そのクレイジーラビットを薙ぎ払う。

 だが、そのスキを突いて別の方向から別の個体による一撃。

 さらに別の個体からの一撃。


「……ぐ。ぐあっ! ぐおおおおぉっ!!!」


 ユーヤが苦痛にうめく。

 マズイ。


「……よし! こっちは何とか片付いた! 今助けに向かうぞ!」


 さすがのクレイジーラビットも、弾切れのようだ。

 森の奥から、もう新しいクレイジーラビットは出てきていない。

 上流側からの流入が止まったことにより、シルヴィやユヅキにも余裕ができた。


「わたしもいきます!」


「ユーヤ! しっかりして!」


 俺たちみんなで、ユーヤの救援に向かう。

 彼は、クレイジーラビットの大群に囲まれ、半ば埋もれているような状況だ。


「鮮やかなる剣の神よ。我が剣技に奇跡を与え給え。俊敏なる一閃。ラッシュ」


 俺はそう唱えて、スキル『ラッシュ』を発動させる。

 もうスピードで標的に接近し、重い一撃を入れるスキルだ。


 ドゴン!

 俺の一撃により、ユーヤにまとわりついていたクレイジーラビットの一角を崩した。


「豪快なる戦の神よ。我が剣技に奇跡を与え給え。敏速なる一閃。ビーストストライク」


 俺に続いて、シルヴィがそう唱える。

 スキル『ビーストストライク』だ。

 効果は、俺のラッシュと大して変わらない。

 スピードと威力がやや高めで、細かな制御でやや劣るといったところだ。


 ドゴン!

 シルヴィの一撃により、ユーヤにまとわりついていたクレイジーラビットの一角が崩される。


「す、すごい……。ユーヤ、あと少しだよ!」


 ユヅキがそう声を掛ける。

 確かにあと少しだ。


 ここまでくれば、下手に大技は使えない。

 ユーヤを巻き込むかもしれないからな。

 俺、シルヴィ、ユヅキ、それに他の3人とともに、残りのクレイジーラビットを撃破していく。


 そして、ついに全てのクレイジーラビットを撃破した。

 これで、脅威は取り除かれた。

 あとは、ユーヤのキズの具合次第だが……。


「う……。ぐ……」


 ユーヤが苦しそうにうめく。


「うっ。こ、これは……」


 シルヴィが青い顔をしてそうつぶやく。

 ユーヤの腹には、大きなキズがあった。

 防具を貫通している。


 おそらく、クレイジーラビットの角の攻撃を何度もくらい、防具の耐久力がもたなかったのだろう。

 頭部や心臓ではなかっただけ、まだマシとも言えるが……。


「ユーヤ……。しっかりして!」


「う……。ユヅキ……。俺はもうダメだ……。最後までダメな男で、ゴメンな……」


 ユーヤが力なくそうつぶやく。

 確かに、このキズは助からない。

 町まで背負っていこうにも、それまでに命が尽きるだろう。


「ダ、ダメだよ。死んじゃダメ! 僕、ユーヤがいないと……」


「へへっ。お前には『大地の轟き』のみんながいるじゃねェか。それに、コウタもいいやつだ……。コウタ、ユヅキのことを頼んだぜ……」


 ユーヤが力なくそうつぶやく。

 死ぬ前の、最後の望みか。

 できれば叶えてやりたいがーー。


「だが断る」


 俺は毅然とそう言う。

 男の最後の望みなど、聞いてやる義理はない。


 そもそも、そんな心配は要らないのだ。

 俺はストレージからあるものを取り出す。

 液体が入った容器だ。

 そして、その液体をドバドバとユーヤの腹にぶちまけていく。


「コ、コウタ!? 何を……」


「ご主人様?」


 ユヅキとシルヴィがそう言う。

 俺の突然の行動に、戸惑っている様子だ。


「どうだ? まだ苦しいか? ユーヤ」


「え? 痛く……ない。腹のキズが治っている?」


 ユーヤが腹のあたりを手で触る。

 キズが治っていることを確認し、驚愕した表情になる。


「コ、コウタ……。もしかして、今使ったのって……」


「ああ、ポーションだな。ポーションの中では下級品だが、それでも金貨10枚以上はするぞ」


 俺はそう答える。

 こんなこともあろうかと、あらかじめポーションを買っておいたのだ。

 もちろん、俺自身やシルヴィのキズへの対策だったが。

 まさか、野郎に使うはめになるとは。


 しかし、さすがの俺でもこの場面で見殺しはできない。

 仕方がなかったと思うしかない。


「ふええぇん! あ、ありがとう、コウタ!」


「コウタ……、いや、コウタの兄貴! ありがとうございます! このご恩は、一生忘れません!」


 ユーヤが感極まった顔でそう言う。

 慕ってくれるのは嬉しいのだが、野郎に慕われてもな……。

 どうせなら、女の子がよかった。


「まあ、あまり重くは考えるな。今回の件をしっかり反省して、同じミスを繰り返さないようにな」


 俺はそう言う。

 ポーション代を請求したいところだが、今のこの感動的な場面では少し言いにくい。

 まあ、感動してくれているみたいだし、自分からそのうち返してくれるのではないだろうか。

 たぶん。


 それよりも、今の俺には少しいい知らせがある。

 ジョブのレベルアップだ。

 クレイジーラビットをたくさん倒したことだし、まあ当然と言えば当然だが。

 さっそく、確認してみることにしよう。

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