番外編 本編第拾伍章 賢者と呼ばれた少女と星読みの一族の男
これは邪神を討伐した後の出来事である。神子達の前から姿を消した刹那は1人森の中に佇む時の神殿まで帰ってきた。
「流石は、賢者と呼ばれるだけのことはありますね。神子様達を導き見事邪神を討伐されました」
「……」
時の神殿に入ろうとした時背後からかけられた男の声に、彼女は何も言わず振り返る。
「これにより邪神の脅威はなくなり、人々は安心して暮らせるようになりました。賢者様感謝いたします」
「君が素直に感謝するなんて気持ち悪い。そうよそよそしくしなくったっていいじゃないか。知らない仲でもないんだから」
微笑み感謝の意を述べる男へと刹那は溜息交じりにそう返した。
「……」
「斗真……いや、トウヤ。意図的に身体を交換し続け生き続けてきた。この世界の理に反してきた罪は重い。次に転生する事が出来ない程に……禁忌を犯し続けた。それを承知の上で君はこの世界にあり続けてきた。それはやはり神子達を助けるため?」
男はすっと目を細め彼女を見詰める。刹那は気にした様子もなく淡々とした口調で尋ねた。
「……ふっ。やはりセツナさんには隠せませんでしたか。そうです。邪神が未来に復活するという事を知っていましたので、禁忌を犯してでも今度こそアオイ様達を助けたいと思いました。あの時アオイ様達を裏切った罪を償うために……今度は守り抜きたかったのです。大切な人達の命を」
「二度とこの世に生まれ変わることができないと知りながら、禁忌を犯し体と魂の交換を行い続けてきたってことだね。神子達を守る為であったとしてもやってはいけない事だ。……神の秩序に反し、逆らい続け生き続けてきた星読みの男よ。お前の罪は償ったところで許されやしない」
「承知しております」
小さく笑うと斗真いやトウヤがそう言って彼女を見詰める。刹那は冷たい口調でそう言い放つ。それに彼が分かっているといった顔で頷く。
『……この世界の神々や精霊に代わり「時の使者」であり星を渡る者としてトウヤ。お前の犯した罪に対する裁きを決する』
「……」
雰囲気の変わった彼女の様子に特に驚くこともなく、トウヤは次の言葉を待った。
『君はこの世界の理に反しこの世界を守る神と精霊の裁きを受ける事となった。……だが、君がこの星の未来を思い、邪神の脅威から世界を守りたいと願い、神子達を助けたいと願ったその気持ちに嘘はない。よって一度だけ君に猶予を与える。アオイ達を守りたいと願い禁忌を犯してまでこの世界に生き続けてきた。それならばこれからも神子達の事を見守り、この星の未来の行く末を見守ること。斗真としての寿命を全うした時、全ての罪の償いをする事となる。つまり、次に転生した時から君はその贖罪のために長い人生を生き続ける事となる。その運命の歯車からは逃れることはできない。罪の償いが終わるまではずっと魂の記憶を継承したまま生まれ変わりを繰り返し、そして世界を守り続けなければならない』
「つまりそれは、一度だけ私の罪を許していただけるという事ですか?」
刹那が淡々とした口調で述べた内容に彼が驚いて尋ねる。
「……それがこの世界の神や精霊が下した君に対する裁きの結果だ。トウヤ……これからもこの星の事を頼むよ」
「! ……分かりました。悠久の時を掛けようとも必ずやこの星を守り続けます。星を守る
柔らかく微笑み言われた言葉にトウヤは目を見開き呆けた後、ふっと笑い深々と頭を垂れ下げ胸に右手を当てその任を心して受けましょうと言った感じに敬礼した。
「それから、僕からも1つお願いがあるんだ」
「あなたからお願いを受ける日が来るとは思いませんでした。それで、そのお願いとはいったい何ですか」
人間に戻った刹那が口を開くとそれに彼が尋ねる。
「僕は今、
「一門一句忘れる事無く覚えておりますよ」
彼女の質問にトウヤが小さく頷き答える。
「それなら、これから歌う唄と共にそれ等をこの世界に広めてほしいんだ」
「分かりました。それがあなたが昔語ってくれた「贖罪」に関する事ならば、ご協力いたしましょう」
刹那の言葉にそれが「時の使者」がしないといけない事で「雪奈達」の未来のためなのであればといった感じに頷く。
「有難う。それじゃあ始めるよ。……~♪」
「……」
彼女は言うと空間からたて琴を出現させ音楽を奏で始める。それから彼女が唄った世界を巡る物語の「予言の唄」を、彼は聞き漏らさないようにと耳を澄ませて聞く。
「僕はこれからこの世界を旅して回るよ。この歌と物語を広めるために」
「では私も私があるべき場所で今聞いた歌と共に貴方達の物語を語り続けましょう」
2人は微笑み合い別れの言葉を交わすと刹那は時の神殿の中へ、トウヤは江渡の都へと向けて帰っていった。
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