第37話3.37 皆で王都へ行きます
「お前ら、準備はいいか?」
ビルが宿題で頭を使いすぎたのか白い煙を出し始めたころ、爺様が食堂へと顔を出した。
「えっと、もう少しで終わらせます」
「え⁉ 何言ってるの、今いいところなのに!」
「シェール、成果は十分だろ。時空理術の一つ、遠見はできただろ」
「だからこそよ。せめて、サーヤと同じく収納空間ぐらいは使いたいの!」
「だめだめ、もう時間がないよ。また今度な。王都でも教えてやるから。っていうより、もうここから先は自分でできるんじゃないか?」
俺の言葉に汚物でも見るかのような冷たい視線を送ってくるシェール。そこに。
「アル、妹なんやから、もうちょっと優しいしたりぃな」
サクラのあきれ声が聞こえた。
「ええ⁉ 俺が悪いのか? 元はといえば、サクラがちゃんと説明したらいい話なんだけど」
「まぁ、そう言われたら辛いところやなぁ。確かに、アルの説明聞いた今なら、教えられそうな気もするけど……」
言葉を止めて、ちらりとシェールへ目を向けるサクラ。
「でも、やっぱり、アルが教えるべきやな」
なぜかは分からないけど、頷きながら言い切った。
俺は意味が分からなかった。サクラが出来るならサクラがするべきだ。俺は、王都でも忙しい。眉をしかめてサクラを見るが、サクラは意見を変えるつもりはないらしい。結局、俺が折れるしかなかった。
「はぁー、分かったよ。でも、教えるのは今じゃない。これから、王都へ行くんだから。ですよね、爺様」
「ん? ああ、そろそろ行こうかと思ってる」
俺たちの様子を何事かとみていた爺様、俺の問いに頷く。それなら、やっぱり今からはできないと、シェールのほうへ顔を向けると。
「アル兄さん、約束よ。ちゃんと教えること」
シェールは、幾分和らいだといいつつも冷たい目線――多分、いつもの表情――でいうだけ言って、食堂を出て行ってしまった。
「アル兄様、ありがとう。シェールちゃん、待って」
ペコリと頭を下げるサーヤを伴って。
「なんだありゃ?」
そんな、シェールの態度に俺は首をかしげる。そこに、いろんな声が届いた。
「アルに構ってほしいんや、シェールちゃんも」
「そうそう、シェールちゃん、アル君のこと大好きだから」
「はっはぁ! 大変だな、アルにぃ。素直じゃないシェールに好かれて」
「むむ!」
「好きなのにあの態度なのか? 大丈夫か、あいつ?」
家族にツンデレしても、誰も喜ばないぞ。俺は、ぼそりとつぶやく。そこに。
「というか、シェールがあそこまで冷たく対応するのアルだけだと思うけどな」
爺様の苦笑交じりの声が届いた。
「えっと、これで全員ですか?」
食堂での勉強会を終えた後、俺はラークレイン城の応接室にいた。爺様をはじめとする、今回王都へ向かう人達と一緒に。
「ああ、とりあえず、これで全員だ。王都近くの森に出るなら護衛も要らないだろうしな」
「分かりました。それじゃ、行きます」
俺は、丹田で理力を練り始める。しばらくして、周りの景色が変わった。
「おお、すごい。これが転移理術か」
「転移門に似てるけど、少し違うな。アルの理力を感じるからかしら?」
初めての転移理術に目を輝かせるのは、理術バカことイーロスおじさんと
そんな二人をよそ目に、俺はサクラのそばへと足を進める。すると。
「なんや。うちがまた泣くとでも思とったんか?」
サクラは頬を膨らませながら俺の方を睨んでいた。
「いや、そういう訳ではないけど。他にいい場所がなくて、またここに来てしまったからな。ちょっとだけ気になった。ごめん」
「ふぅ~ん。えらい素直やないか。その素直さに免じて許したる。……何にも思うことがない訳やあらへんし」
後半うつむき加減でぼそぼそと話すサクラ。俺は、内心苦笑いしながらサクラの少し後ろを歩いて行った。
王都の城門では、ひと騒ぎあった。なにしろ、上流も上流、龍爵家の領主が供回りも少ないうえに徒歩で現れたのだから。
「何に襲われましたか⁉ 侵略軍ですか⁉ それともドラゴンでも⁉ いかん、すぐに増援を‼」
門番から話を聞いた警備隊長が大慌てで走ろうとするのをユーヤ兄にお願いして足止めしてもらう。その上で、爺様――というより父さんがじっくりと転移理術の説明をして、ようやく、王都へと入れてもらうことができた。
爺様を先頭にぞろぞろと王都を歩く。そこに、豪華な馬車が現れ、中から飛び降りたちょび髭の執事が走ってきた。
「こ、紅龍爵様! はぁはぁ、来られるなら、前もってご連絡を、はぁはぁ」
よほど慌ててたのだろう、息も絶え絶えなようすのまま話をする執事。
「うゎはははは、どうせなら気づかれずに屋敷に! と思ったのだが、門番から連絡が行ったようだな」
爺様は豪快に笑うだけだった。
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