第3話 猫忍集会
秋も深まる10月の終わり。満月の夜がやってきた。ご主人の隙を突き、事前にウッドデッキに形代の猫人形を出しておき、ご主人たちが寝静まるのを見計らって、ハナと一緒に集会へと向かった。もちろん、実体の俺たちは、ご主人と一緒にベッドで寝ている。
猫忍集会は、俺たちが住む町から狐川を渡った反対側、狐川にそそぐ玉川の上流で開かれていた。夜中、自由に外を走ることのできる俺たちは、早い。そして猫忍修行により、スピードとともにジャンプ力も上がっていて、文字通り飛ぶように駆けていける。仙太郎の後について、数十分で集会場所に到着した。
山の頂上で展望台となっている場所だ。煌々と輝く満月が、あたりを真昼のように照らしている。そこには、俺たち3匹以外、誰もいない。ように思えた。でも実際は周囲にたくさんの猫がいるようで、仙太郎が小さく鳴くと、それに呼応するように小さな鳴き声が重なった。それはやがて、にやお、にやおと大きなだみ声となり、ぎぃやぎぃやと夜空に響く掛け声となった。
「遅かったな」
「新入りを連れてきたんで少し遅れた。サスケと、ハナだ」
いつのまにか、20匹ほどの猫が広場を丸く囲んでいる。その真ん中には、大きな茶トラの猫がいた。俺もサイズ的には大きいし、仙太郎も大きいけれど、その倍はある大柄な猫だ。満月の光の下で、金色の毛がキラキラと輝いている。「うちの頭領だ」と、仙太郎。
「今宵…」
頭領の声は野太く、闇夜に風にのって響き渡る。
「今宵、新しい仲間を迎えた。猫忍の掟を守り、技を磨き、ともに“猫の楽園”を探しあてよう!」
一同が「おお」と応じる。俺は「猫忍の掟」が気になった。そんな話は仙太郎から聞いたことがない。
「“忍者の三禁”は、酒・欲・色だそうだが、猫は欲求を抑えるのが苦手だからな。もっと簡単なものだ。互いの命を奪わない、互いのテリトリーを守る。そして、これは忍者と同じで、“余分なことは考えない”。まあ、普段の生活と同じっていうことだ」
頭領の演説は続いている。でも、そのほとんどは猫の出入り情報。どこそこの家に誰が生まれた、どこそこの家に新しい猫が来た、あの猫が死んじまった… そして、どこそこの家は猫に優しい。俺の家のことも言われていた。だから、最近知らない猫が来るのか…
情報は面白かったけれど、期待していた猫忍らしさが感じられない。なんだかがっかりだ。
「こういうもんだ。今は戦乱の世の中ではない。食べ物も有り余って、野良でも生きていくには十分だ。ましてや、ここに来ている連中の8割は、お前らと同じ形代。みんな家猫なのさ。楽園を探すといっても、今住んでいるところが一番の楽園だったりする。だから、本当に探す奴なんていないのさ。猫忍の技も、今やスポーツと一緒だ。技を磨いて、競技会に出たりする」
「競技会!? 忍の技を守るだけなら、それで十分なのか。でも、俺は“猫の楽園”が気になるなぁ…」
「そう言ってくれるか。じゃあ、私についてきてくれ」
「どこへ?」
「“猫の宝”に関する場所だ」
ハナは、俺たちのやり取りを少し離れて聞いていた。仙太郎が後ろを向いて歩きはじめると、ハナは俺の手を引き「帰ろう」と言った。
「楽園とか、わけわかんない。行かなくていいよ。帰ろう」
でも俺は、猫の楽園に興味がある。だから「ハナちゃんは帰っていいよ」と言うと、プリプリ怒りながら「仕方がないから、ついて行ってやる」と言う。仙太郎もハナちゃんも。どうしてみんな上から目線なんだろう。
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