ゲーム?2
「うん、そう。なにしろ架空のお話だから、全部最初からやり直しも出来たの。だから最初は誰、次はまた最初に戻って違う人と、って、自分の行動を変えることができてね……そんな目で見ないでよ……私はロワール王子の一人だけで飽きちゃったの! でもあのヒメは、多分何度も繰り返してその全員と結婚するとかして、そして最後に出てきたあなたとも恋愛して結婚したみたいなのよね、その架空の話の中で」
「なんだそれ、どこが面白いんだ?」
「あ、はい、ソウデスネ。女の子用の遊びでゴザイマスヨ……。ちなみに男の子用のもあってね、たくさんの美少女たちが好きよーって言ってくるらしいよ? つまりすっごくモテモテになって、中には女の子が服とか脱いじゃったりするものもあるらしいよ? やっぱりそういうのが男の人は好きなのかな?」
聞きかじりだけれどそんな内容だよね? 違うの?
……あ、うん、見たことがないと、想像がつかないですね、そうですね……まさしくそれは「理解不能」という顔ですねわかりますよ……。
「……君の知っている世界には不思議な遊びがあるんだな」
そしてどうやら理解を諦めたらしい。
「あ、ああソウデスネー、でもあなたみたいに誰もがモテモテで困っちゃうっていうわけではないからね、夢を見たいときだってあるのよ……ときめきたいというか……」
もう、ただの架空の遊びだったとさえわかってもらえたら、後はどうでもいいかなーははははー……。
「ときめき……? まあ、大体理解した。架空の話であって実際には結婚してはいないということだな。誓ってもいないと。ああ、でももし君が実は僕ではなくて、あのロワール王子と結婚したかったと思っているのだったら正直に言ってほしい」
「え? いや全然? でももし私がそうだと言ったら、まさかあなたがお膳立てでもしてくれるの?」
この人そんな親切な思考回路をしていたっけ? と思ったら。
「は? そんなわけないだろう。ただこの戦争に一層気合いが入るだけだ。うんあいつが敵国の人間で良かったな。さっさと捕まえてとっとと処刑しよう。あの宮殿でわざわざ僕を切らせておいて良かった。もう口実もある」
「うわ怖ぁ……」
ホントこの人、そういう時はいい顔するよね……。
まあどうせこの会話のどこかで、私にその気が全然ないのをさっさと感知したからの軽口なんだろうけれど。
彼は人の嘘を見抜く。
これがいいのか悪いのか。
よくよく考えれば考えるほど怖い人だ。なんでこんな人が仮とはいえ私の夫なんだろう。
ヒメはこの人のこういうところを知っているのだろうか。ゲームにもちゃんと出てきたのかな、この黒い笑顔。まさかね?
「まあ事情はわかった。君が正直に話しているのもわかる。じゃああとはあの偽『聖女』を送り返したら終わりかな」
どうやらもう他のことを考え始めたらしい。でも。
「終わるかな……」
私の不安は消えていなかった。
「ん? なぜ?」
「彼女はその過去の話の通りに、あなたと結婚するのが目標みたいだから。これで諦めるとは思えなくて。それに本当にロワール王子が暴力を振るうんだったら、そこに返したことを逆恨みされる可能性はないのかしら」
「ああ、そのロワール王子の暴力というのは嘘だ。きっと私の同情を引きたかったのだろう。あの時の彼女はそういう時に感じるような恐怖を感じてはいなかった。それにあの王子は婚約破棄もしていないよ。今回のあの偽『聖女』の返還も、愛する婚約者である彼女を無事に帰して欲しいというあの王子の嘆願の結果だし」
「は?」
愛する……婚約者……?
「読むか? 送られて来た手紙には、あのロワール王子のそれはそれは熱い彼女への愛が綴ってあるぞ? そしてどうにか無事に返して欲しいと切々と訴えている」
「あ、いや結構……でも、じゃあ彼は本当にヒメを愛しているのね? あらまあ、純愛なのね?」
「……『魅了』はやり過ぎると解けなくなることがあるんだよ。だから加減が難しいんだ。彼女はもしかしたらやり過ぎたのかもしれないね。過剰に『魅了』をかけ続けると、相手はだんだん思考力が奪われて、最後は廃人のようになってしまうんだが。そしてそんなことをつい疑ってしまうくらいには熱烈な手紙だぞ。まあ、理由はともかくあの王子があの偽『聖女』にがんじがらめになっているのはこの手紙でよくわかる。おかげでこちらに随分有利な条件で取引ができた」
そう言ってレクトールは片手でひらひらと手紙を見せながら、にんまりと黒い笑みを浮かべたのだった。
「え、じゃあ私を妻にとか言ったっていうのも」
「まず嘘だな。まあもしかしたら君のあの王宮脱出直後くらいには言ったかもしれないが、この手紙の様子では今はもう覚えてもいなさそうだぞ。あの彼女は妄想癖でもあるのか?」
「さ、さあ……?」
そうか……嘘か……。
またうっかり私は踊らされたということか……。
「あー、だからアニス、彼女が言ったことは全部嘘だからな? 惑わされるなよ?」
突然彼が何故か歯切れの悪い感じになって、え、どうした?
「はい? えーと、それはどれのこと言っているのかしら?」
もう嘘が多すぎて私には何がなにやらわからなくなっているよ?
「あー、その……僕が、君が『聖女』だから君と結婚したという話だ」
「ああ、って、ん? なんで知っているのかな? 彼女の言葉はわからないはずじゃなかったの?」
「うん、実はあの偽『聖女』が知らない言葉で話し始めたから、ずっとロロに翻訳させていた」
「え、翻訳!? ロロに?」
「そう。トイという命令は通訳しろという命令のテイマーが使う言葉なんだ。ロロに僕と接触して直接思念を送らせた。ああ報酬は最高級のまたたび。手に入れておいてよかったな。魔獣は味方につけておくにこしたことはないよね。それで君が理解した内容を、ロロを通して僕に教えてもらっていた」
にんまり。
「なるほど」
だからあの時、彼はロロを頭に乗せたままだったのか。私とロロはつながっているからなー。しかしこの働くのが嫌いなはずのロロが喜んで手を貸すくらいにマタタビが魅力的だったとは。さすがマタタビ、さすが猫。魔獣といえどもそこは変わらないのね。
そしてレクトールはきっと金にものを言わせて、とんでもなく高級なマタタビを仕入れていたに違いない。きっと下手な人間様のご馳走より高いぞ。そしてもしかすると今頃は、確実に手に入るように入手ルートも確保しているかもしれないな。それもこれもただこのロロを自由に使役するためだけに。
うん、この人はそういう人だ。知ってる。
などと考えていたら。
「だから、一応念のためにね? 君はすぐにあの彼女の言葉を信じてしまうみたいだから。言っておくけれど、僕はそんな肩書きだけで結婚なんてしないよ。僕は本当に君が気に入ったから、君と結婚したんだよ」
と、こちらを伺いながら、ちょっと言いにくそうに、レクトールが言い出したのだった。
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