来訪2
「まあ! それこそが騙されている証拠ですわ! オリグロウが召喚したのは『先読みの聖女』です。オリグロウとこの国、ファーグロウの未来を予言する聖女。そしてそれが出来るのは、わたくしなのです。『癒やし』が使えるだけでは『先読みの聖女』とは言えません。そして私には視えるのです、オリグロウの未来、このファーグロウの未来、そしてレクトール様、あなた様の未来も……! わたくしこそがレクトール様が必要としている『聖女』、そしてあなたを死の運命から救える唯一の人間。あなた様の横に座るその女ではありません。そしてわたくしはロワールから逃れてあなたを救いたい一心で、危険を承知でここに来たのですわ……!」
キラキラぶわ~!
「そうなのですね。私のために危険を冒してまで敵陣であるここまで来てくださるとは、なんてあなたは優しい方なのでしょう」
キラキラぴか~!
「はい……!」
「しかしどうやって?」
「はい……?」
「ここはあなたがいた国からは敵国の、しかも重要拠点です。なのにどうやってここまで来ることができたのでしょうか? しかもお忍びという感じでもなくあのような立派な馬車で。どうして私の部下たちはそんな立派な馬車が城の前に来るまで警戒しなかったのでしょう。私の部下たちは、もしや全員揃って仕事をさぼっていたのでしょうか?」
……終始笑顔で穏やかに話しているはずなのに、とても不穏な空気を感じるぞ……。
なんだろう、この豪華な応接室で、蛇とマングースが対峙しているのを見ているかのような気分は。
「まあ、レクトール様……そんなことはどうでもよろしいではありませんか。きっとわたくしは運が良かったんですわ。聖女には天が味方してくれるものです。それよりもわたくしのあなた様を想う真摯な気持ちをわかってくださったのですよね? そうです、わたくしこそが本当の『聖女』なのです。あなたを騙して横に座るその女ではなく、本当の聖女はわたくしだと、わかってくださったのですよね……!?」
キラキラキラ~!
吹き荒れるキラキラな光。
私、なんだかそろそろ視界がチカチカしてきたよ……。
しかし猛烈なこのキラキラの中でも、「魅了」に耐性のあるレクトールは冷静のようだった。
「いいえ、私は全く騙されてはおりませんし、自分の判断も確信しておりますよ。どうやら『先読みの聖女』さまは今、少々混乱されているようですね。きっと長旅のせいでお疲れなのでしょう。私どもはまだ『先読みの聖女』さまとロワール王子の婚約が解消されたという話は聞いておりませんので、これからオリグロウに確認をとらせていただきます。それまでのしばらくの間は、『先読みの聖女』さまにはぜひこの城にゆっくりと滞在していただきたいと思います。ようこそ私の城へ」
そうにっこりと微笑んでレクトールは、思わずぽかんと成り行きを見守っていた様子の副将軍に「赤の間」の用意を告げた。
「赤の間」とは、この城にある貴賓室ではあるが、たしか監禁もできる仕様だったはずの部屋の名前だ。
はい、いくら休戦中とはいえ敵国の人間が単身でのこのこやってきたら、そりゃあ捕虜になるというものです。
しかしヒメはそのレクトールの言葉がショックだったようだった。
とつぜん両手を口元にあてて絶望の表情をするヒメ。
「ああ! なんてこと! そこまで騙されているなんて! なんて恐ろしい女なんでしょう、どうやったらここまで……。ああ、わたくし心から一生懸命に説明したら、きっとわかってもらえると思っていたのに……私が本物の『聖女』なのです! 目を覚ましてレクトール様! その女と一緒ではあなたは不幸になってしまう。そう、死んでしまうのです! 救えるのは『先読みの聖女』であるわたくしだけ。なのにそのわたくしにそんな酷いことを言うなんて、優しいあなたらしくないですわ! 私はただあなたを救いたくて、必死でかの国を脱出してきたというのに、そのわたくしの気持ちを……きっとわかってくださると信じていたのに……!」
そうレクトールにすがるような目で訴えた後、レクトールの命令を部屋の外に伝えて戻ってきた副将軍に突然ヒメが顔を向けて訴えかけた。
「あなたもそう思うでしょう? なぜなら本当の『聖女』は私なのですから! みんながみんな、この女に上手く騙されているのですわ。なんて酷いことでしょう。ねえ? そうお思いでしょう? ジュバンス副将軍!」
そしてヒメが副将軍に駆け寄り、その手を握って潤んだ瞳で副将軍を見つめた。猛烈なキラキラがジュバンス副将軍に向かう。
それを見て、私は眩しさにだんだん頭痛がしてきた頭でぼんやりと思ったのだった。
ああ、なるほど。
きっと今までヒメは、そうやってオリグロウ王宮の人達を「魅了」スキルで取り込んで、ヒメの主張を信じさせて来たのだろう。
そしてそれを、ここでもやろうとしているのか。
なんだろう、ゲームの主人公補正と「魅了」スキルの合わせ技なのかな。
その二つが合わさった結果、今まできっと彼女のどんな主張をも通すことが出来ていたのかもしれない。
たとえば私の即時追放とか。
そうやってあのヒメを崇拝するオリグロウ王宮が出来上がっていたのか。
便利だなー、その「魅了」というスキル。ちょっと羨ましいぞ。
だけれどジュバンス副将軍は、ヒメの様子に少しびっくりした顔になった後に、静かな声で言った。
「私は将軍に仕えている軍人ですから、上官の命令は絶対です。彼が黒だというのなら、きっとそれは黒なんでしょう」
その答えにヒメが目を見開いて、眉間にシワを寄せて呟いた。
「……なぜ? なぜこんなにも『染まらない』の? なんで私の言うことを誰も信じてくれないの!?」
どうやら「魅了」スキルが思うように効かなくて混乱しているらしい。
その時レクトールが口をひらいた。
「この城のものは暗示や洗脳にはかからないようになっているのですよ。これぞ『聖女の加護』、つまりこの聖女アニスの力です。だからここではあなたのスキルは効かない。私は誰が本物の『聖女』か知っています。あなたもここではそのような無駄な労力を払わずに、しばらくの間ここでゆっくりと旅の疲れを癒やしてください」
私はその言葉に少し驚きつつ思い出していた。
そういえばこの城には以前、耐暗示や耐洗脳の魔術をかけたっけ。
お陰で「魅了」スキル持ちで耐性のあるレクトールだけでなく、ジュバンス副将軍も取り込まれずに済んだということらしい。
うん、あの時頑張ってかけておいてよかったな。
私には無理ーと断っていたら、もしかしたら今頃はちょっと面倒な事態になっていたのかもしれないのか。
何でもやっておくものだね。
ではあの魔術は城全体にかけたから、少なくともこの城の中では彼女の「魅了」スキルは無効になるだろう。
この光の洪水も、ただ単に私の目をチカチカさせて頭痛を引き起こしただけだったということか。
なんだか損した気分だな。
と思いつつさっさと治すけれどね。
はいぽいぽい。
「レクトール様! 目を覚まして! そしてわたくしを助けてください! レクトール様……!」
そう叫びながらヒメは、その後呼ばれた衛兵たちにがっちりと囲まれて、半強制的に部屋を出て行ったのだった。
「なんだかうるせえやつだったな。で、あの女は本当に『聖女』じゃないのか?」
ジュバンス副将軍が頭をポリポリと掻きながら将軍に確認するように言った。
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