条件

 入ってきた使用人に抱えられたその物体には見覚えがあった。それを見るのは久しぶりだが、そんなことを懐かしむ心の余裕は無い。


「ソウタよ。我は信じたくなど無いが、お主の潔白を証明するためにも、協力を願う……まずはその珠に触れよ。そこからだ。」


 その珠って……ウソ発見器じゃん! え、俺火龍と関わりがあるってバレて処刑ルート? いやそれはマジで避けたい……バレたら逃げるか……とりあえず知らないフリをしとこう。


 まあ、そこまで心配する必要も無かろうが。


「おい待てよ。俺の潔白を証明するって……」


「詳しい話はそれに触れてからだ。それとも、この場で我が決めた方がよいか?」


 今逃げたら下手をすれば指名手配、触れてしまえば尋問開始、触れなかったら独断判決……今一番リスクが低いのは……


 俺は黙って左手でその珠に触れる。


「うむ、触れたようだな……では、我の質問にいくつか答えてもらうが……よいな?」


「いやよくないだろ。なんで俺がお前の質問に答えないといけないんだ?」


 本来、国のトップを『お前』呼ばわりするのは、刑罰を課せられる程の事だ。しかし、非難の声は飛んでこない。


 ここは帝国……実力主義だ。そして御前試合により、俺が各国の護衛の中で一番強いと印象付けたことにより、誰も俺の物言いを非難出来ないのだ。まあ、皇帝に限っては知らないが。


 なら皇帝の指示に応じるなと思うかもしれないが、彼の『邪神倒せる』宣言が本当だとすれば、邪神よりも格下であろう俺にとって、彼、即ち帝国は脅威となる。よって、彼の尋問を上手く切り抜けることが最善となるのだ。まあ、それだけで終わらせる気も無いが……


 皇帝の言葉を待つ。


「お主には、火龍と何かしらの関係……奴の味方をする程のモノを持っている……という疑惑が掛かっておる。我はそれが誠かどうか、確かめたいだけだ。」


 なるほど……まさか「邪神討伐できる」宣言や大きすぎる見返りは、全てこのための……


「確かめてどうするんだ? 仮に俺がそういう関係を持っていたとして、お前は俺をどうするんだ?」


 皇帝にとって、俺と火龍が組むのは避けたいはず……


「そうだな……それを全世界へ向けて発信するとしよう。さすれば、各国がお主に喧嘩を売るような事はなくなるだろうな。」


 ふーん……全世界へ向けて発信……か。


「それじゃあ俺にとってのメリットが無いな。なんせお前が発信しなくとも、ここにいる各国の代表達がそれを聞いてるわけだからな。それに、火龍との関係に関しては勝手にお前が俺を疑ってるだけだ。俺が情報をお前に好きなだけ引き出されたとして、無いに等しい見返りは、いかがなものか。まあ、俺の提案を受け入れてくれるなら、俺はお前の質問に答えよう。」


 実のところ皇帝にとってのメリットも薄そうなのが物凄く気がかりだが、流石に答えてくれないだろう。今は未確定な情報が多すぎる。


 皇帝はしばし考え込んだ様子を見せたあと、口を開いた。


「では、お主の提案を聞こうではないか。」


 俺に委ねてきたか……なら都合がいい。俺は彼の味方にも敵にもなりたくない……が、俺をこんなことに付き合わせたお代は貰うぞ?


「質問と回答は次の規則に則って行おう。

 一つ、俺とお前がそれぞれ交代で、質問と回答を行う。

 二つ、答える側は必ず魔道具に触れた状態で、質問に、はいかいいえで答える。

 三つ、質問は一人3回までできる。……という提案だが、どうする?」


「……ふむ、それでよい。」


 ここからはリスキーだが、まあ仕方ないな。


「わかった。じゃあ、規則通り、俺が先に質問をするぞ。」


 そう言って、俺は触れていた魔道具を円卓の向かいの皇帝の方へ転がした。

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