無理難題

「!……ほう、ソウタは討伐依頼を受けぬと……理由を述べよ。火龍を討伐することにより、人々の安全が確保されるのだ。それを断るとは、よほどの理由があるのだろう?」


 皇帝は俺が断った瞬間動揺を見せたが、すぐさま持ち直した。流石偉い立ち位置の人間は修正力が凄いな……。


 そしてサラッと、「人々の安全確保」という盾を出した。これにより、俺がこれから述べる火龍討伐の拒否理由が、「人々の安全確保よりも自分にとって重要なこと」でなければならなくなった。流石だな……


 彼はテーブルの上のグラスを手に取り、中の水を口の中へと流し込む。紅茶とかじゃないんだな。というか他の人たちは紅茶なんだな。


「あるに決まっている。そもそも、俺の命の保証が無い。確かに俺は火龍を撃退したが、それはあちらが交戦の意思を無くしたからだ。もし火龍が力尽きるまで戦ったとするならば、ただでは済まない。それに、さっきの人が言ったように俺はほぼ無傷だったが、それは向こうも同じだ。あんたは俺に死にに行けと言うのか?」


 そもそも、異世界の人を助ける義理なんて無いしな。


 周りの重役達を見回すと、彼等はサッと目をそらした。彼らにも今回の提案に思うところがあるのだろう。当の偉そうな提案者は、黙って腕を組んでいる。


 視線を一身に集める彼は、優雅な仕草で再度グラスを手に取る。


「……なるほど……確かに魔物との戦いには危険が伴う。その相手が火龍でともなればなおさらだ。では、それ相応の報酬と、できる限りの支援をここに約束しようではないか。望みを一つ申せ。お主が火龍を討伐した暁には、それを我が帝国の威心にかけて叶えてやろう。」


 なッ そこまでして俺に行かせたいのか!? 意味がわからない……というか、そんなことができるくらいなら帝国の軍隊を総動員してでも火龍を倒せよ……まあそれは非現実的だな。


「陛下! それはあまりにも無理が過ぎまする! どうかお考えを!」


 皇帝の側近か護衛だか知らないが、彼の脇にいたそれなりの地位にいるであろう人が悲鳴にも近い声を放つ。


「控えよ。命を落とす危険が十分にありながら、大古から幾人もの英雄を屠ってきた火龍を討伐させるのだぞ? にも関わらず、支援もせず更に十分な報酬を与えぬのは言語道断! 我が帝国の名が廃る!」


「ハハッ! 申し訳ございません!」


 すごすごと引き下がる彼には目もくれず、皇帝は再度こちらに向き直る。


「どうだ? 巨万の富を求めるも、絶世の美女を求めるも、そなたの自由だ。よく考えるが良い。期限は明後日までだ。まあ、討伐の依頼を受けるか否かはここで決めてもらうがな。」


 彼の口角が上がっている。何を狙っている? 俺の提示する願いによっては、火龍討伐よりも大赤字だぞ!? ここは無理難題を突き出してみるか.......何にしよう?


............いいのがあったな。火龍と双璧をなす、この世界のもう一つの最強一一


「質問だ。あんたらは、俺が火龍を討伐した暁には、何でも叶えてくれるんだな?」


「そうだ。我が帝国の威心にかけてな。」


「それなら、俺が願えば、あんたらだけで邪神を討伐してくれるんだな?」

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