反抗

 とんでもない事を言い出した声の主へ視線を移すと、そこには椅子にふんぞり返って座る、卵みたいな体型のオッサンがいた。


 あいつ……帝国相手にそんな態度で大丈夫なのか? あいつがいる国は帝国相手に偉そうにできるほど強大なのか? 色々と疑問はあるが、取りあえず彼の言葉を待つ。


「理由は何だ?」


 皇帝はそんな偉そうな態度をされても表情一つもなく、低い声で訪ねる。内心では軽くキレてるんじゃないだろうか。


「いくら警戒したり、防衛の強化を行った所で、火龍相手には何の役にも立たんだろう。そんな無駄な事に金を費やすのは、得策とは到底思えん。厄災は取り除くが吉。よって、火龍の討伐を提案する。」


 とんでもない事の割には、理由がきちんと存在している。だが、少々無理矢理過ぎないか? ていうか、討伐って言うけど、肝心な誰がやりにいくのかって部分をきちんと説明しろよ……強いらしい勇者パーティー(笑)でも無理だったんだぞ?


 皇帝は眉一つ動かさない。


「確かに一理あるが、誰が討伐しに行くのだ?」


『勇者パーティーでも無理だったんだぞ?』

とは付け加えなかった。そりゃそうか。帝国のメンツ丸潰れだもんな。


 皇帝がそう訪ねると、彼は口元をニヤリと歪めて、こちらを見た。おいおい嘘だろ?


 そのとき、俺が何故ここに呼ばれたのか、大体見当がついた。ん? それなら……皇帝もグルって事か!?


「皆さんお気付きの通り、奴を単独で相手取れる程の実力を持つ人物が、ここに一人おるではありませんか。」


 彼がそう言い放つと同時に、お偉いさん達からの大量の視線が俺に集まった。


 俺、嵌められた。お偉いさんや……どうかそんな納得のいったような顔をしないでくれよ……


「このソウタという者は、昨日の火龍襲来時に単独で、荒野にて火龍と交戦しこれを撃退したとか……それに彼は無傷でございます。それ程の実力があるのです。彼ならきっと奴を討伐してくれるでしょう!」


 前のめりになっていたそのオッサンは、語気を強めてそう言うと、椅子にもたれ掛かった──椅子がギシギシいってるぞ……。


「ふむ……確かにその話は真実だと聞いているが…………皆はどう思う?」


 皇帝が周りを見る。こいつとオッサンは、多分グルだ。俺に火龍を討伐させたいはずの皇帝がわざわざ周りに意見を求めたのは、『帝国の権力に周りの国の代表が押し流されずに、きちんと決定した』という事実が欲しいからだろう。


 でもまあ、


「……賛成ですな。」

「…………賛成だ。」

………

………

 事実上は権力バリバリ使ってるんでしょうねぇ……


 ただ、彼らに取って、火龍は邪魔な存在でもあるのだろう。『出来ないから反対』していたのであれば、『出来るのなら賛成』に傾くのも理解できる。


 皇帝は、自身と俺以外の全員が賛成の意思を表明したのを確認すると、


「余も賛成だ。ソウタ、やってくれるな?」


 と加えた。俺以外は満場一致。これは結構まずいな……まあ、


「俺はやらないぞ?」


 断るけどな……俺が何でも言うこと聞くと思うなよ?

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