皇都クラギス
「……とうとう着いたか……ようやくこの暇地獄から解放される……。」
俺達一行の目的地である、クラギス帝国の皇都クラギスの中に入った俺は、喜びの声をその口から漏らした。歩いて寝て歩いて寝てを繰り返していた日々とは、しばらくおさらばだ。
「長かった……長かったぜ……盗賊の襲撃も味方内でのトラブルも色気も何もねぇ、時のインフェルノから、ようやく解き放たれる! あばよ! 暇な日常! おはよう! 刺激のある日々! 新たな出会い! 新時代の幕開け!」
俺の目の前を歩く黒髪黒目の少年が叫ぶ。周りの視線が痛そうだ。そして、俺への視線も……。
「ちょっと音量を下げろ。見物人達に変人を見る目をされるぞ……まるでどこかの劇か何かの名シーンみたいだな。元ネタとかあるのか?」
「多分あるだろうけど、何だったかは覚えてねぇ。調べる術なんてほとんど残されてないから、俺が死ぬまでにそれを知る日はきっと来ないだろうよ。それもまた人生だ。」
「アキラ、お前なんか別キャラになってないか?」
「俺に固定キャラを求められてもなぁ~。」
「まあ、それはそうだな……。」
「さて、いよいよ皇都クラギスに着いたわけだけど、俺とソウタは御前試合をしなくちゃならねぇ……いいよな、ソウタは。ほぼほぼ勝てるから……。」
「いやわからない。勇者よりも仲間の方が強い可能性は捨てきれないからな。というか、アキラが勝つ可能性も十分あると思うぞ?」
「まあ、そう思っとく事にする……。」
「思っとけ思っとけ。そして前日まで御前試合の事など忘れてしまえ。その方がきっと楽だ。お、城の門がすぐそこにまで見えてきたな……。」
「さすが皇帝の住まう城なだけあって、豪華だな、こいつは……。ところで、俺とソウタって、どこに泊まるんだ? 城の中での護衛だけど、民間の宿に泊まるなんて事も無くはないし……。」
「まあ、こんなに大きな城なんだから、来賓並びにその護衛が泊まる所くらいはちゃんとあるんじゃないか? まあ、俺はそこら辺の知識は何にもないから、適当に言っただけなんだがな。」
「まあ、とりあえず城の中に入ってみればわかることだ……いや、確かゾボロが『お前ら城泊まりだからな。』とか言ってたような気もしなくもないな……いや、どうだったかな覚えてない。すまん。」
────
──「うん、俺達やっぱり城泊まりだな。俺とアキラの二人で、一つの部屋を使うって事は……そんなに部屋の数が無いのか……いや違うな。各国から代表と護衛が来てるわけだから部屋が無いんじゃなくて、人自体が多いんだ。」
「勇者から見れば、人材集めにこれ以上ないシチュエーションだな。そういえば、この後の予定って、なんかあったっけ?」
「夜の八時から飯だ。今は五時くらいだから余裕があるな……幸いそれまでは自由時間の枠になってるから、風呂でも入れるか聞いてみるか。久しぶりに他人が入れた湯に浸かりたいしな。」
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