龍の王

「え? ソウタは火龍の恐ろしさを知らないのか!? 龍の王にして『炎の覇者』とまで言われる程の化け物だぞ!? レッドドラゴンとは訳が違う!」


 彼は目を見開いて、俺の両肩をがっしりと指が食い込まんばかりに掴んだ。


「痛いから肩から手を離してくれ。それで、アキラから聞いたのは、勇者が討伐に失敗したって事くらいなんだが……。そんなにヤバイ奴なのか? いやまあ勇者が討伐出来なかったって事はかなり強いんだろうけど。」


「ああ、悪い。火龍についてだが、『強い』とかいう言葉では到底表現出来ない程だ。何せ、この世界においてあの邪神と双璧をなす程だぞ?」


 『邪神』久し振りに聞いた気がするな……それと同じくらいの強さの龍の王……つまり火龍が勇者から逃げ切ったと……。勇者の方から逃げた気がするが……まあ相対しただけでも凄い方か……。


「邪神と並ぶって、相当の強者だぞ? まあでも、それとの戦いから生きて帰ってきた、勇者パーティーも中々の実力のようだな。」


「実力は本当にあるみたいなんだが、俺達に伝わっている情報は、大体権力者が操作した後の物だろうからな……あまり信じすぎない方が良い。」


「まあ、頭の中の片隅に入れておく事にする。」


「まあ、それくらいが良いだろうな……おっと悪い、仲間がテントで待ってるだろうから俺は戻るわ。じゃあな。」


「おう!」

「じゃあな。」


「……なあ、俺達もそろそろ帰るか? 夜遅くまで起きるのは健康に悪いし、明日は多分早くから出発するだろうからな。」


「せやな。じゃあ俺達も帰って、早く寝るかな。」


 そうして俺達は、明るい方へと戻っていった。テントに戻ると、アキラがまたコップを、頭を下げながら俺に突き出して、


「ソウタ。頼む、また喉が渇いちまったからもう一杯水くれ! 頼む!」


「お前、それが原因で夜中トイレに行きたくなって俺を起こしても、一緒にトイレにはついて行かないぞ? まあ、それを覚悟の上で飲むんだな……。」


────

──「…………もう……朝か……。」


 まだ寝たいと訴える自分の体を無理矢理動かしてテントの外に出て、寒い環境下で目を覚まそうとすると、


「おう、起きたかソウタ。」


 まだ寝ていると思っていたアキラが立っている状態で隣にいた。


「お前、朝弱いはずなのにもう起きてたんだな。」


「まあ、シッコしたいという理由で結構早くから起きてたんだがな?」


「いやそれならトイレ行ってこいよ……もしかして俺と一緒に行きたかったのか?」


 冗談めかして言うと、アキラは真剣な表情になった。え、マジ?


「ちげーよ。俺のムスコが朝立ちしてるせいで、今出したら大惨事になるからだよ!」

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