メシ屋

 ギルドマスターの部屋から出て、ギルドを出ようと歩いていると、


「あ、意外と短かったスね。」


 あの独特な姿勢で立っているアキラが俺に話しかけてきた。キツくないのか? その姿勢。


「まあな。」


「ソウタって、この後予定あるっスか? 無いんやったら、一緒に飯食いに行きまへんか? ワイ美味いとこ知っちょるんスよ。」


「美味い飯か……よし、行くか。早速そこへ案内してくれ。」


 すると彼は親指を立てた。えらくその動作が俊敏だったが、なにか意味でもあるのだろうか……


「了解っス! では、わいに付いてくるっスよ!」


 彼は踵をかえした。ポケットに左手だけ入れて右腕を後ろにまわして歩く姿から、独特な感じが滲み出ている。


 そして、俺は彼の手に白い包帯が巻かれているのを見た。怪我でもしてるのか?


 ……でも、その包帯に赤色が見受けられない。打撲で内出血でもしたのか?


────

──「ここがその美味いとこっス。ここは『焼肉の味は同位に昇るがごとく』とも呼ばれちょる程の店っス。ワイも、週五日程行ってる店っス。」


 アキラがある建物の前で止まった。木造の建物で、看板には『焼肉ヘブン』と書いてある。


 『ヘブン』……って、ガッツリ外国語じゃね? とは思ったものの、よくよく考えてみれば『スキル』とか『ステータス』とかも、ガッツリ外国語だと気付いた。


「なあ、『焼肉の味は同位に昇るがごとく』ってのは、一体どういう意味だ?」


「焼肉って死んだ動物……つまり天に昇った動物の肉を焼いた物っスよね?」


「まあ、そうだな。」


「それと、めっちゃ美味いモン食うたとき、『天にも昇るかのような』っちゅう表現が使われるときがあるっスよね?」


 それって『天にも昇るかのような心地』とかっていう意味で使ってるんじゃ ……まあここは同意しておくか。


「まあ、あるな。」


「つまり焼肉を食うことで、同じように天に昇るくらい美味しいっちゅうことっス。」


「あー、あ、ん? うーん……。」


 まあ言いたいことはわかる。わかるが……


「なら、こんな回りくどい言い方じゃなくて素直に『焼肉の味は天にも昇るかのよう』とかにすれば良かったんじゃないか?」


「いや、それやとロマンがないんスよ。それに……やっぱりカッコいい表現を使いたいやないスか! 『ごとく』なんか、人生の中で使うてみたい語句ベスト50くらいには入ってそうじゃないスか!」


「ベスト50って微妙すぎるだろ!」


 ロマン……ねぇ。ホントに使い方合ってるのか? くそっ、スマホを持っていたら、今すぐに検索したのに!


 そしてカッコいい表現を使いたい……か。ん? ちょっと待てよ?


「もしかして……本当にもしかしてだけど、『焼肉の味は同位に昇るがごとく』って、お前が考えたのか?」


「そうっスよ。ほな、早速入りまひょか?」


 やはりか……。まあ、いいか……。


彼が木造の扉を開けると、扉が擦れる音がした。油使わないのか?


 俺達は店の中へ入っていった。

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