第31話 襲撃(2)
第二皇子が避難しているという竹の間へ辿り着くと、重厚な扉の前で2名の衛兵が周囲を警戒して目を光らせていた。自分のものとは異なる軍服を着ているので、おそらく親衛隊員なのだろう。マキは顔色一つ変えず、悠然と見張りの男達へと近付いていく。
「……何の用だ??」
自分とそう歳が変わらないように見える大人びた雰囲気の青年がサッと歩み出て、マキの行く手を遮る。厳しい口調で用件を問われたが、冷静に衛兵を見つめたまま淡々と答える。
「隊長の指示を受けて応援に参りました。共に第二皇子殿下を警護させて頂きます」
先程も口にした皇子の居場所を探る為の口実だが、親衛隊の青年は訝しげな視線でジロジロとマキを観察した後、眉を顰めて後ろにいる壮年の衛兵に目配せをする。彼よりも大分先輩であろう屈強な男は片眉を上げ、鋭い目付きでこちらを見据えながら口を開く。
「お前、どこの隊の所属だ? 近衛隊から応援が来るなどという報告は一切受けていない。素性がはっきりしない奴をこの部屋に近付けることは出来ない。上司の名前を言ってみろ」
チッ…………。
マキは心の中で大きく舌打ちをする。なるほど、簡単には通してはもらえないようだ。これだけの混乱の中であれば、変則的な行動も多少は大目に見て貰えると思っていたが……流石は皇室直属の護衛といったところか。
若い衛兵越しに向けられる鋭い視線が、回答次第では容赦しないと強く訴えてくる。
……あまり派手に動きたくはないのだが、仕方ないか。
マキは静かに瞳を閉じて小さく溜息を吐いた後、衛兵達が怪訝そうに眉を顰めた隙を狙ってに素早く壮年の衛兵の背後に回り、首を締め上げる。衛兵はマキの動きに反応して身構えたものの、あっという間に裏を取られてしまいなす術がない。胸元に忍ばせていた睡眠薬をたっぷり染み込ませたハンカチで鼻と口を塞ぐとカクンと力が抜けて動かなくなった。
「なっ……! お前、く、くせも……ぐあぁぁぁあ!!」
一瞬で伸されてしまった先輩を見て、青年が剣の柄に手を掛けながら声を張り上げる。部屋の中にいる同僚に危険を報せようとしているのだろう。
しかし、彼が最初の言葉を言い終わらない内に、目にも止まらぬ速さで振り上げられたマキの脚が衛兵の頭に命中した。
ズシリと重い一発をまともに喰らい、衛兵の身体が後ろに大きく傾く。それでもなんとか踏ん張って剣を抜こうとする男の胸元に潜り込むと、きつく拳を握りしめてその腹に容赦のない一撃を放つ。
「カッ……カハッ……!」
声にならない呻きと共に、衛兵の口から飛び出した液体が地面に滴る。若い衛兵は白目を剥いたまま、苦しそうに崩れ落ちていった。
マキは慎重に青年を観察し、意識が無いことを確認すると先程衛兵と同じように睡眠薬を染み込ませたハンカチで鼻と口を押さえ付ける。この強力な睡眠薬を嗅いでしまえば、どんなに屈強な男でも半日は目を覚ますことは無い。強い力で抑え続けていると、程なくしてピクピクと痙攣していた青年がぐったりと壁に身体を預けて動かなくなった。
今はとりあえず眠らせて置いて、事が済んだら始末してしまおう。
少々派手に行動してしまった所為で、中の衛兵が異変に気付いたかもしれない。早く終わらせて妹のもとに戻らなければ。突然居なくなったことをきっと心配しているだろう。
地面に転がった衛兵達を手早く縛り上げた後、マキは華美な装飾の施された取っ手に手を掛け、ゆっくりと重い扉を引いた。
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