第十九話 再会
一宮が「ジンジとチョウタツが殺されたんだ!話を聞いてくれ!」と言ったが、セッケイは「黙れ!まずそのボディーガードが信用できない!こっちを見るな!壁の方を向いて立て!」と神経質にまくし立てた。
新士は一宮を見たが、一宮が両手を下に向けて「従おう」という素振りを見せたので、縛られた両足でヒョコヒョコと飛び跳ねながら壁際まで行き、壁の方を向いて立った。
その時だった。
新士は尻にチクリと痛みを感じた。
見ると小さな針が刺さっており、その後方には新士が渡したボールペン型の吹き矢を構えた一宮がいた。
新士はその場に倒れて、首を仰け反らせて痙攣し始めた。
「やった!やったぞ!!俺が煙を仕留めたぞ!!」と一宮が叫びながら、膝を叩いて笑っている。
すると、動かなくなった新士の頭にセッケイが銃を向けた。
「やめろ!やめろ!」と言って一宮は慌ててセッケイを止めると、「もう毒が回ってる。返り血が付いたらただじゃ済まないぞ。」と言った。
セッケイは新士の顔をジロジロ見ながら、「なんだよ、あっけねーな。本当にこれがあの煙かよ?こんなやつのために切られたジンジとチョウタツも可哀そうだな。」と言った。
「本物だよ。俺はずっと一緒にいたから分かる。こいつは本当に危なかった。ジンジとチョウタツを犠牲にしたお陰でこいつは俺を信用した。俺の作戦がこいつの能力を上回ったってことだ!」と、一宮は大仕事に誇らしげに言った。
いつまでも物珍しそうに新士の顔を覗き込んでいるセッケイを他所に、「じゃあ、俺はカンリに勝利連絡する。」と言って、一宮は嬉しそうに携帯を取り出すと、ホテルの大きな窓から都会の夜景を見下ろしながら電話を掛けた。
一宮がニヤつきながらカンリが電話に出るのを待っていると、後ろで「ドサッ」と音がした。
一宮が振り返ると、新士がボールペン型の吹き矢を構えていた。
新士の足元では、首に結束バンドを巻かれたセッケイが真っ赤な顔で苦しそうにもがいている。
一宮が胸にチクリと痛みを感じて見下ろすと、胸に先ほど新士の尻に刺さっていたものと同じ針が刺さっていた。
一宮が慌てて針を抜き取ると、「電話を切れ。」と新士が言った。
一宮は新士の目に有無を言わせない空気を感じ、言われる通りに電話を切った。
「違うんです。私は脅されて・・・」と一宮は言いかけたが、新士はそれを手で制して、「喋るな。お前には時間がない。黙って聞け。」と言って一宮をじっと見た。
気圧された一宮が言葉を失ってゴクリと生唾を飲み込むと、新士は「お前の作戦ははじめから分かっていて、セッケイを始末するまでは利用させてもらった。本物の一宮大輔は10年前に殺害されていることも、お前が一宮大輔になりすましていることも知っている。」と言って、新士はゆっくりと一宮と名乗っていた男、エイギョウに近付いた。
新士に睨まれ一歩も動けないエイギョウに、「お前とカンリが親子だという事も知っている。」と言って、新士はエイギョウの手から携帯電話を取った。
唇をプルプルと震わせているエイギョウに、無言で「喋るな」と圧をかけると、「さっきお前の胸に刺さった針は本物だ。1時間以内に解毒剤を飲まなければお前は死ぬ。」と言った後、新士は少し間を置いてから話を続けた。
「今掛けた番号で、もう一度カンリに電話を掛ける。煙は殺したと伝えろ。そしてトカゲを解散して引退するよう説得しろ。説得出来たら解毒剤をやる。途中でバレたり、説得に失敗すれば・・・分かるな?」と言うと、新士は携帯の発信ボタンを押してエイギョウに渡した。
「・・・でも、場所の特定を恐れてカンリは1分以上電話で話さないんだ。」とエイギョウは言ったが、「お前たちを狙う煙はもう死んだんだ。上手くやれ。」と新士は言った。
エイギョウは左手に携帯を持ち、右手でグシャグシャと自分の髪を掻きむしりながら考えを巡らせていた。
新士は腕を組んで、正面からエイギョウの様子をじっと見ている。
やがて受話器の向こうから声が聞こえた。
エイギョウは先ず「煙を殺した」と伝え、もう自分たちを追い回す者はいないので、今からする大事な話をゆっくり聞いて欲しいと言った。
カンリは何か考えていたのか、短い沈黙が挟まった。
カンリの了承が取れたのか、やがてエイギョウはトカゲを解散して引退しようと説得を始めた。
それを聞いてカンリは激高したのか、新士にも電話の向こうで怒鳴っているような声が微かに聞こえた。
その後静かになり、今度はエイギョウの相槌が続いた。
エイギョウの様子からすると、カンリに逆に説得されているようだった。
エイギョウは何度も部屋の時計を見て、髪をグシャグシャに掻きむしりながら思い通りにならない状況に苦しんでいた。
エイギョウが何かを決心したように「父さん!」と言った時だった。
もしかすると、エイギョウは今の状況をそのまま説明して、自分の命を助けるために解散と引退を迫るつもりだったのかも知れない。
だが、エイギョウのその先の言葉を遮るように、電話の向こうから銃声と何かが倒れる音がした。
その銃声は新士にも聞こえた。
「と・・・、父さん?!何があった!父さん!!」と叫んでエイギョウは携帯電話を耳に強く押し当てていたが、やがて「そんな・・・」と呟くと、ゆっくりと新士を見上げて、震える手で携帯電話を渡した。
新士が電話を耳に当てると、電話の向こうから懐かしい声が「トレインズ勝利。」と言った。
新士は、「きっと来るって信じてたよ。お帰り、おじさん。」と言った。
喜朗おじさんは、「ただいま。」と言って笑った。
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