第100話「差別を感じさせないために」
「機嫌は直ったか?」
「あっ……」
陽が手を放して尋ねると、真凛はまるで捨てられた仔犬かのような表情を浮かべた。
そして視線は陽の右手を見つめており、今何を考えているのか容易に陽にもわかる。
だから再度頭に手を置くと、真凛はまた嬉しそうに頬を緩めた。
(俺、何してるんだろ……?)
同級生の女の子の頭を何度も撫でていることで、陽はそんなことを考えてしまう。
真凛の機嫌を直すためにしたこととはいえ、このままでは話が一向に進まない。
背後からは相変わらず寒気がするような視線を感じるし、全然いい方向に進む気がしなかった。
「とりあえず、話を進めていいか?」
仕方がないので陽は頭を撫でながら真凛に尋ねる。
真凛は目を開けてチラッと陽の顔を見てくるが、すぐに目を閉じて撫でられることに集中しているようだった。
(なにげに、佳純と似てるところもあるんだよな……)
そう思いながら、陽は口を開く。
「秋実は何が不満なんだ? 俺は佳純を贔屓していないぞ?」
「…………」
陽が声をかけると、真凛は無言で陽の顔を見つめる。
数秒目が合うと、不服そうに視線を逸らして口を開いた。
「だって……根本さんは佳純って呼ぶくせに、私は秋実ですもん……」
真凛は小さく頬を膨らませて唇を尖らせながらそう答えた。
どうやら、呼び方で差別されていると言いたいようだ。
「それに、私は二人きりの時でしか陽君って呼べないのに、根本さんは普通に呼んでます……」
「つまり、呼び方で佳純が贔屓されてるって思ったのか?」
「後は……陽君、根本さんには甘々です……」
「そうか……?」
佳純に甘いと言われ、陽は首を傾げてしまう。
すると、真凛は不服そうにジト目で見つめてきた。
だから陽は困ったように口を開く。
「俺としては、秋実にこそ優しくしていたつもりなんだが……?」
「優しいですけど……なんだか、根本さんとのほうが距離が近いです……」
「…………」
真凛は頭を撫でられていることで冷静じゃなくなっているのか、とんでもないことを口走っている。
当然さすがの陽にもそれはわかっており、これに反応していいのかどうか悩んだ。
そして、一旦気付かなかったことにして口を開く。
「じゃあ、秋実のことも真凛って呼んだらいいのか?」
「――っ!?」
陽が呼び方を変える姿勢を見せると、真凛は驚いたように陽の顔を見上げた。
顔はみるみるうちに赤くなり、バツが悪そうに目を逸らす。
「そ、それは、恥ずかしいかもです……」
「じゃあ、やめておくか?」
「でも……私も陽君と呼んでいるわけですし、それでかまいませんよ……?」
本当に素直じゃない。
陽はそう思うが、真凛が頷いたことで意思を固めた。
「それじゃあ真凛って呼ぶよ。秋実も、俺もあいつらの前で陽と呼んでいい」
きっと呼び方を変えたら佳純の機嫌は悪くなるだろう。
しかし、佳純と真凛に仲良くしてもらいたい陽は、二人を差別していると思われるのは困る。
だから、真凛が呼ばれ方に差別を感じているのならそこを省き、佳純はどうにか宥めることにしたのだ。
(どんどんと沼にハマってる気がする……)
陽はそう思ったが、目の前にいる真凛は顔を赤くしながらも嬉しそうだったので、これでいいのかもしれないと思うのだった。
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あとがき
今回で
100話目になりました……!
気付けば100話……!って感じですね(笑)
これからも楽しんで頂き、応援して頂けますと幸いです(#^^#)
話が面白い、キャラが可愛いと思って頂けましたら、レビューをして頂けますと幸いです(*´▽`*)
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