第83話「贔屓はだめだと思います」

「――えへへ」


 陽に頭を撫でられ、子供のようにかわいらしい笑みを浮かべる真凛。

 妹がいたらこんな感じなのだろうか、と陽は思いながら頭を撫でていた。

 そして一分ほど経った頃、陽はゆっくりと手を離す。


「あっ……」


 すると、真凛は名残惜しそうな目を陽へと向けてきた。

 どうやらもう少し撫でてほしかったようだ。


 しかし――。


「それで、佳純もなのか……?」


 隣には既に、目をキラキラとさせて撫でるのを心待ちにしている幼馴染みがいた。


「もちろん……!」


 陽の問いかけに対し、佳純はコクコクと頷く。

 そして、頭を差し出してきた。


「これ、結構恥ずかしいんだが……」

「でも、約束は守ってもらわないと」

「はいはい、わかったよ」


 仕方がなく、陽は佳純の頭を撫で始める。

 サラサラとした髪は触り心地がいいのだけど、撫でていると佳純がグイグイと体を押し付けてき始めるので陽は他の二人の視線が気になった。

 その二人はといえば、目を逸らす事もなく陽たちのことを凝視している。


「なんで、二人とも見つめてくるんだ……?」

「いや、目の前でそんなことされてたらやっぱ見るでしょ」

「はい、見てしまいますね」

「…………」


 やりづらい。

 そんな思いを抱えながら陽は再度佳純に視線を戻す。


「えへへ、陽~」


 佳純は普段学校では絶対に見せないだらしない笑みを浮かべており、いつの間にか陽の腰へと手を回していた。

 やりたい放題である。


「佳純、一応ここ人前だから」

「人前でなければする、と……?」

「なんで、秋実は秋実でそんな物言いたげな目を向けてくるんだ……? 人前でなくてもしないぞ」

「本当でしょうか……?」


 じぃーっともの言いたげな目を向けてくる真凛。

 全然陽の言葉を信じていないようだ。


「普通に考えてみろ、俺がすると思うか?」

「…………現時点でしているような……?」


 現在佳純に抱き着かれ、頭を撫でているという証拠があるのに何言ってるんだ、と真凛は言いたくなる。

 じぃーっと責めるような視線は、その気がある人間なら大喜びしそうだ。

 しかし、当然陽にその気はないのでこの誤解をどう解くべきか頭を悩ませる。

 その間も佳純は頬すりをしてきていた。


「真凛ちゃんも後でしていいんだよ?」


 すると、そこで更なる爆弾を凪沙が投げてきた。


 余計なことを――そういう思いを込めて陽は凪沙を睨むが、凪沙は既に窓の外へと視線を逃し口笛を吹いている。

 爆弾だけ放り込んで後は知らない、という態度だ。


「…………」

「いや、秋実? 何考えているんだ? やめとけ、絶対に後悔するから」


 凪沙を睨んでいた陽だが、真凛が顔を真っ赤にして考え始めたため、即座に制することにした。

 さすがにやらないだろうとは思いつつも、真凛は陽の想像を超えてくることが多々ある。

 だから、念のため制したのだが――。


「根本さんだけ贔屓は、だめだと思います」


 陽が止めたことで逆に真凛の意志を固める形になってしまった。

 なぜなら、佳純はよくて自分はだめなのだ、という不平等さを感じさせてしまったからだ。


「――凪沙、恨むからな?」

「し~らない」

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