第77話「悪魔のささやき」
「いひゃい……」
陽の隣で、佳純は涙目になりながら両頬を撫でていた。
よほど強く凪沙に引っ張られたようだ。
「大丈夫か?」
「…………」
陽が声をかけると、佳純は拗ねたようにジト目を向ける。
助けてくれなかったのに、白々しい。
そんな思いが込められているようだ。
しかし、佳純はもしかしたら撫でてもらえるかもしれないと思い、試しに頬を陽に差し出してみる。
すると――。
「喧嘩ばかりするからだぞ?」
陽は、優しく佳純の左頬を撫で始めた。
それにより、陽以外の三人は一瞬体を硬直させる。
佳純は期待して頬を差し出したが、ほぼ無理だと思っていたので陽の対応は意外だった。
そして凪沙は、まさか真凛が目の前にいるのに火に油を注ぐような行動をするとは思っていなかったので、いったい何をしているんだとツッコミを入れたい思いに駆られる。
真凛は真凛で陽が佳純を甘やかすところを見せ付けられなんとも言えない思いを抱いていた。
三者三様に考えていることは違うが、共通するのはまさか陽がこんな行動を取るとは思わなかった、ということだ。
(そろそろ甘やかさないと、絶対に爆発するもんな……)
陽は真凛たちが驚いていることに気付きながらも、優しく佳純の頬を撫で続けていた。
陽が真凛の頭を撫でているところは当然佳純に見られており、そのことに関して佳純が何も思わないはずがない。
だから、佳純のフラストレーションが爆発する前に陽はガス抜きをすることにしたのだ。
「…………」
陽に撫でられる佳純は次第にふにゃ~とだらしない笑みを浮かべ始める。
そして、更に撫でろとでも言わんばかりに陽に体を預けてきた。
「「…………」」
真凛と凪沙はそんな二人を無言で見つめる。
真凛は羨ましそうに、そして寂しそうな表情を浮かべながら見つめており、凪沙は凪沙でいい加減殴っても怒られないんじゃないか、と考え始めていた。
「あのさ――」
『さすがにいい加減にして』
そう言おうとした凪沙だけど、ふとある考えが頭を過って口を閉ざす。
「どうした?」
そんな凪沙に対して陽が声をかけると、凪沙はまず佳純に視線をやり、その後真凛へと視線を向けた。
そして頭の中で計算をすると、ゆっくりと口を開く。
「君さ、もうそこまでするなら片方にやったことをもう片方にもやるようにしたらどうなんだい?」
凪沙が発した言葉――それは、悪魔の囁きだった。
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