第66話「随分と気合が入った服装ね」

 次の土曜日――佳純と取り引きをした陽は、ニコニコの佳純と共に駅のホームに居た。

 今日は真凛と約束をしていた撮影日&観光日。

 にゃ~さんの動画はまず佳純がやることをやってからということで条件を呑んだ陽だが、内心不安でしかなかった。


「わかってるな? なるべく、仲良くだぞ?」

「わかってる。約束は守る」

「本当だろうな……?」


 あれだけ嫌がっていた真凛と共に行動するにもかかわらずご機嫌な様子の佳純が腑に落ちず、陽は念のため確認をしてしまう。

 にゃ~さんの動画が控えている以上馬鹿な真似はしないだろうが、余計なことを言って真凛を煽ったり、陽との関係をベラベラと話し始めるのではないかと陽は懸念していた。

 佳純はクールに見えて実は凄く好戦的だということを幼馴染みである陽はよく知っているのだ。


 今までどれだけの女の子や、絡んできた動画配信者に喧嘩を売ってきたことか。

 その尻拭いをしてきた陽としてはどうしてもいざとなると心配になってしまう。


「しつこい」


 そんな陽を佳純は一言で一蹴する。


 しかし、言葉の割に表情はニマニマが止まらない様子。

 クールさの欠片もない幼馴染みを横目に陽は気味の悪さを感じた。


 そうして陽が佳純を観察していると、少ししてホームに電車が止まる。

 陽はヒールを履く佳純が変にこけないよう少しだけ意識を佳純の足元へと向けながら最終車両に乗り込んだ。


「――あれだな」


 車両内に入ると、目立つ金色の髪をした女の子はすぐに見つかった。

 いや、というよりも目がバッチリと合ってしまった。

 彼女は頬をほんのりと赤く染めながら、上目遣いに陽たちを――いや、陽を見つめていたのだ。


(相変わらずあざとい……)


「おい……早速約束を忘れてないだろうな?」


 背後に立つ佳純の雰囲気が変わったことを敏感に感じ取った陽はジト目で佳純の顔を見る。

 すると、佳純はプクッと小さく頬を膨らませてソッポを向いてしまった。

 どうやら拗ねてしまったようだ。


(何からツッコめばいいのかすらわからない……)


 先程までのご機嫌な様子はどこへ行った、やら、仲良くする約束はどうなった、などの言葉が陽の中をかけめぐる。

 しかし、こういう時の佳純は下手に言っても更に拗ねてしまうだけなので、ここはちゃんと佳純が約束を守ってくれることを信じて真凛の元へと行った。


「おはよう」

「おはようございます、葉桜君、根本さん」


 陽が声をかけると、真凛は席から立ちあがって笑顔で頭を下げた。

 先日見せた佳純の参加に対する嫌がりは一切見せておらず、相変わらずの大人の対応に陽は心の中で評価する。


 しかし、上品に頭を下げてお嬢様のような雰囲気を醸し出す真凛を見た佳純は、なぜか物言いたげな目を陽に向けてきた。

 陽はどうして佳純に睨まれているのかわからないが、佳純に真凛へと挨拶するように目で促す。

 すると佳純は不服そうにしながらも、髪に右手を当ててサッと掻き上げながら口を開いた。


「おはよう秋実さん。随分と気合の入った服装ね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る