第57話「十人十色」
「お前、完全に他人事って顔だな」
まるで自分には関係ない、とでも言うかのように笑顔で話す晴喜に対し、陽は物言いたげな目を向ける。
すると晴喜は困ったように頬を掻いた後、屋上から見える夕日へと視線を向けて口を開いた。
「僕は器じゃなかったんだよ」
「器?」
自嘲気味に話す晴喜を前にし、陽は思わず尋ねてしまう。
そんな陽に対して晴喜は力のない笑顔を見せた。
「普通、真凛ちゃんのような女の子が傍にいたら誰も放したくないと思うんだ。だけど、僕はそれを重荷に感じて……」
真凛は学校一、二を争う容姿と学力を誇るだけでなく、他人を尊重し、寄り添うような優しい性格をしている。
小柄で童顔なところは人によってはマイナスかもしれないが、それを補うほどに女の子らしいある一部分も成長をしていた。
そんな女の子が傍にいるのなら普通は放さない、と晴喜は言いたいのだ。
そしてそんな女の子を嫌がり、突き放した自分のことを責めている。
「それは人それぞれだろ」
しかし陽は、晴喜の言葉を肯定しなかった。
ここで肯定をすることがどういう意味になるのかを陽はわかっているのだ。
ただ、それだけではなく他に考えていることもあった。
「十人十色という言葉があるように、人それぞれ考え方は違うだろ。お前が秋実とは合わなかったというのは事実だが、だからといってもうお前が悪いとは言わない」
何も知らなかった頃とは違い、今の陽は晴喜の事情を知ってしまっている。
それでもなお晴喜が悪いと責められるほど陽は浅はかではなかった。
「……君って、本当に不思議な人だね」
陽の言葉を聞いた晴喜はなぜか驚いた様子を見せる。
そんな晴喜に対して陽は文句を言いたい気分になったが、晴喜の話はまだ続きそうだったのでグッと言葉を呑みこんだ。
「でも、真凛ちゃんを傷つけたのは許されないことだよね。それなのにどうして、あの子はニコニコと僕の隣にいるんだろう……」
晴喜と真凛の仲は昔のように仲がいい幼馴染みという関係に戻っている。
本来、自分を傷つけた人間と一緒にいたがる人間はいないだろう。
しかし、真凛は晴喜に対して嫌悪感は見せず、昔のようにニコニコ笑顔で接して自分から話しかけているのだ。
それに対して晴喜は気持ちの悪さを感じているのかもしれない。
(そりゃあ、自分のせいで傷つけてしまったと思っている人間に対して怒れるような奴じゃないからだろ……)
真凛がどうして晴喜に対して何も文句を言わないのか――それを理解している陽は、なんとも言えない気持ちになってしまう。
だけど、ここでそれを言うことを真凛が望むはずがないため、陽は話を変えることにした。
「それは今度秋実に聞いてみればいいんじゃないか? さっきも言ったけど、俺が今知りたいのはお前がこれからどうしたいかってことだからな」
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