第55話「女って難しい」

「――女って難しい」

「うん、急に呼び出したと思ったらどうしたの?」


 放課後、屋上でフェンスにもたれながら嘆く陽に対し、この場に呼び出された晴喜は苦笑いを浮かべる。


「いや、まぁ、うん」


 佳純は甘えん坊のくせに他の女の影がちらつくだけで機嫌が悪くなるし、真凛は真凛で怒るポイントがよくわからない。

 両方が納得するところで話を落ちつかせたいのに、癖が強い女子二人によってそれがうまくいかないことで陽は愚痴りたくなっているのだ。


 しかし、それは晴喜には関係がないので陽は頭を切り替えて再度口を開いた。


「それよりも、呼び出して悪いな」

「まぁ、放課後は暇をしてるからいいけどね」


 そう言う晴喜は優しい笑顔を見せてきた。

 あのいじめの一件以来晴喜の様子は落ち着いている。

 付き合っているという建前があるせいで昼休みは佳純とお弁当を食べているようだが、それに対して悪い噂を聞かないことから嫌々感は出していないようだ。

 それに、真凛とも元の幼馴染みのように仲良くしていると聞く。

 話を聞く限りでは晴喜は完全に前を向いて歩きだしているようだった。


 しかし、結局それはあくまで噂などの人づてに聞いていることであり、陽自身が自分の目で確かめたものではない。

 だから佳純のこともあるので、一度陽は晴喜と直接話しをしておきたかった。


「さて、何から話したものか」

「なんでも聞いてくれていいよ。陽君には恩があるしね」

「あぁ、それは助か――おい、ちょっと待て」


 晴喜にお礼を言おうとした陽だが、違和感を覚えてそちらに喰いついてしまった。


「ん? どうしたの?」

「いや、今なんて呼んだ?」

「陽君?」

「やっぱり聞き間違いじゃなかったか……。急にどうして下の名前で呼び出したのかが気になるんだが」


 陽は嫌な予感がしながら晴喜に尋ねる。

 すると、晴喜はニコッと笑みを浮かべて口を開いた。


「真凛ちゃんが嬉しそうに呼んでたから?」

「…………」


 嫌な予感が当たったことで陽は思わず額に手を当てて天を仰いでしまう。


(あいつ、二人きりの時だけっていう約束を破りやがった……)


 真凛がどういう経緯で晴喜の前で陽の名前を呼んだのかはわからない。

 しかし、これが佳純の耳に入れば厄介極まりないのはまず間違いなかった。

 だから陽は、今後真凛に『陽君』呼びをさせないように検討を始める。


 そんな陽を見た晴喜は、慌てたように口を挟んだ。


「あっ、大丈夫大丈夫。僕の前でしか言ってないし、普段はちゃんと葉桜君って呼んでるから。ただ、テンションが上がった時だけ無意識に陽君呼びしてるみたいだね」

「いや、俺のことでテンションが上がる話題ってなんだよ?」

「う~ん、それは内緒かな?」


 陽の質問に対し笑顔で曖昧に返す晴喜。

 答えを言わない晴喜に対して陽は不満を覚えるが、とりあえず真凛がどういう状況で陽君呼びをするのか聞きだすことにした。

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