第11話「涙目で悶える金髪美少女」

「――あ、あの、真凛ちゃん、一緒に食べてもいいかな?」


 食券を買いに行った陽を食堂のテーブルで待っていると、見知らぬ男子が真凛に話しかけてきた。


「ごめんなさい、今は彼を待っていますので」


 真凛は顔も知らなかった相手に対して誰かとは尋ねず、食券を買う列に並ぶ陽へと視線を向ける。

 すると、男子は絶望にひしがれた表情をした後、トボトボと立ち去って行った。


(ごめんなさい……)


 真凛は心の中でだけ先程の男子に謝る。

 陽を待っていることは嘘ではないが、先程から真凛は一緒に食べようとしてくる男子たちがわざと勘違いするような断り方をしていた。

 それに対して少し罪悪感を抱いてしまうのだ。


 しかし、先程から断っても断っても男子からの誘いが絶えない。

 男子からどのように見られているのか真凛は自覚していたが、今までほとんど誘いを受けることはなかった。

 それは、ひとえに幼馴染みである晴喜の存在が大きかったのだろう。

 やはり特定の相手がいる女子には男子も声を掛けづらいのだ。


「…………」


 このまま席に座っていると疲れるだけだと思った真凛は、陽の元へとテクテクと歩いて行くことにした。


 そして――。


「なんですか、それ……?」


 丁度陽が受け取った料理――真っ赤な液体がたっぷりとかかったどんぶりを目にしてしまった真凛は、恐る恐る尋ねてしまった。


「ん? 来てたのか。これは激辛からあげ丼だ」

「どんぶりから出る湯気だけで目が痛いです……」

「おいしいぞ?」


「…………ごくっ」


 人間は好奇心旺盛な生き物である。

 自分の想像つかない食べ物を前にし、それをおいしいと言われればどうしても味が気になってしまうものだ。


 そして、見た目からは辛い物というのはわかっても、それがいったいどれくらい辛いのかはわからない。   

 そのため、真凛は一口だけ食べてみたいと思ってしまった。


 空いている席に二人して座るが、真凛の視線は陽の激辛からあげ丼から外れない。

 誰がどう見ても真凛の興味は激辛からあげ丼に注がれている。


「一つ食べるか?」

「いいのですか……?」


 いいも何も、興味津々の表情をされていたら無視はできない。

 そのため陽は、真凛がテーブルに置いていた弁当箱の蓋の上へとからあげを一つ乗せた。

 それと、一緒に真っ赤に染まったご飯も少しだけ乗せる。


「あ、ありがとうございます。では、私のほうも――」


 真凛はそう言ながら、テーブルに備え付けられていた空き皿へとシソの豚巻き一つと、卵焼きを一つ乗せた。


「二個もいいのか?」

「等価交換です。まぁ、私のは手作りなので、味は保証できませんが……」


 真凛の手料理――それを聞いた途端、真凛と陽のやりとりに耳を澄ませていた周りの男たちの視線が一斉に向く。

 そして、全員が陽に対して嫉妬の視線を向けてきた。


(胃に穴が開きそうだな……)


 とんでもないほどの敵意を向けられる陽は、改めて今自分がどれだけ人気がある子と一緒にいるのか理解した。

 真凛の手料理など、他の男子ならお金を払ってでも食べたがるものだろう。

 そんなものを食べてしまえば、男子からの嫉妬は避けられない。


「いや、俺はいい」


 見た目的にはどちらも凄くおいしそうに見えるので残念ではあるが、さすがに我が身の安全と天秤に乗せた場合選ぶほうは決まっている。

 だから陽は断ることにした。


 しかし――。


「私の手料理、そんなに食べたくありませんか……」


 手料理と聞いて陽が退いたと勘違いした真凛が、悲しそうに表情をくもらせてしまった。

 それにより、周囲からの視線は嫉妬から殺意へと変わる。


(うん、やっぱり俺は秋実と相性が悪い気がするな……)


 一年生の時から陽にとって真凛はやりづらい相手だ。

 その一つとしては、彼の言動がピンポイントに真凛を悲しませてしまうところにあった。


「いや、そういうわけではなく、周りの目が、な……?」


 とりあえず真凛を悲しませておくと敵意の数が増えていくだけなので、陽は遠回しに理由を説明した。

 すると陽が言いたいことがわかったらしく、真凛は悲しむ表情から困った表情へと変えた。


「わかりました。本当は自信作だったので食べて頂きたかったですが、これでは仕方がありませんね」

「まぁ、機会があればまた次の時に頼む」

「はい……! それでは、申し訳ないですが頂きますね」


 陽の言葉に笑顔で頷いた後、真凛はからあげへと箸を伸ばす。


 そして、口に入れると――。


「~~~~~~~~~~~~~っ!」

 

 言葉にならない声をあげて、涙目で悶え始めた。


「あぁ、それおいしいんだけど、ちょっと辛すぎるんだよな」


 真凛の様子を見て陽は呑気な声でそう呟く。

 それに対し、真凛は(早く言ってください!)と心の中で叫ぶのだった。



__________

あとがき


読んで頂きまして、ありがとうございます!

話が面白い、キャラがかわいいと思って頂けましたら、

感想やレビューを頂けますと幸いです(#^^#)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る