第10話「フリーになった金髪美少女はモテすぎて困る」
「はぁ……」
自分の部屋に戻った陽は、ベッドに転がり先程のことを思い出して大きな溜息を吐く。
(わかってるんだよ、俺が最低な人間だってことくらい……。だから、もう同じ過ちを起こさないようにしてるのに……お前まで、最低になるなよ……)
頭に過るのは、先程話しをしていた佳純の表情。
昔はあんな表情をするような人間ではなかった。
クールなところは変わらなかったが、他人に気遣いができる優しい女の子だったのだ。
それなのに、今の彼女の心には魔物が棲んでしまっている。
そしてそれを生み出してしまったのは、紛れもなく陽だった。
(一緒にいるのが当たり前だった……。その意味を俺が理解していなかったせいなんだよな……)
思い出すのは、いつも隣で笑っていた佳純の表情。
彼女がどういう気持ちで隣におり、そして笑顔でいたのかを陽は知らなかった。
一緒にいるのが当たり前だと思ってしまっていたからだ。
そのせいで――過去に、陽は彼女を大きく傷つけてしまっている。
その呪縛から陽は未だに抜け出せずにいた。
(高校に入ってから、あいつはもう吹っ切れたと思っていたのに……やっぱり、そうじゃなかったんだよな……)
陽はこれから自分がどうするべきかを考える。
今の佳純が本当に幸せなら何も問題はなかった。
しかし、どうやら佳純は自分の幸せとは違うことで行動をしている節がある。
思い出せば、一年生の時に既にその兆候はあった。
だけど佳純との一件があったことで他人と関わることが怖くなってしまった陽は、それを見て見ぬふりをしてしまったのだ。
特にそれが佳純のことだったのだから、陽はより一層動けなかった。
そのせいで今状況はかなり厄介なことになっている。
真凛のことだけをどうにかすれば終わりだと当初は思っていたのに、どうやらこのまま終わらせるのは
「――にゃ~」
額に手を当てて考え事をしていると、耳元でかわいらしい鳴き声が聞こえてきた。
目を開けると、大切な家族である猫が陽の顔を見下ろしている。
「にゃ~さん……」
「にゃ~」
陽が名前を呼ぶと、にゃ~さんはスリスリと頭を擦り付けてきた。
この名前は陽が付けたわけではないが、自身も気に入って呼んでいる。
陽はにゃ~さんを抱っこするとそのまま頭や体を撫で始めた。
にゃ~さんは少し変わった猫で、抱っこされたり撫でられることを全く嫌がらない。
むしろ、自分から求めてくるような甘えん坊なのだ。
陽はそんなにゃ~さんがかわいくて仕方がなく、考えを整理するためにも今はにゃ~さんに癒されることにしたのだった。
◆
「――葉桜君、いらっしゃいますか?」
翌日の昼休み、突如として聞こえてきたかわいらしい声にクラス内が騒然とする。
クラスメイトたちはまず声の主に視線を集め、次にこれから食堂に向かおうとしていた陽へと視線を向けた。
その視線の行き先を追っていた声の主は、嬉しそうに陽へと近寄ってくる。
「よかったです、まだいらっしゃったのですね」
かわいらしくて素敵な笑みを浮かべながらそう言うのは、昨日共に行動をしていた真凛だった。
「この行動は想定していなかった……」
彼女が現れたことに対し、陽は頭を抱えたくなる。
まだ昨日の答えが出せていないこともあるが、それ以上に真凛のような注目生徒が陽の元を訪れるのは困るのだ。
簡単に言えば、注目を集めてしまうからである。
「あっ、ごめんなさい……」
察しがいい真凛は当然陽の言葉をすぐに理解するのだけど、それによって彼女がシュンと落ち込んで謝ってきたため、クラスメイトたちからの殺意に満ち溢れた視線が陽を射抜く。
男女問わず人気な真凛を悲しませてしまうのは、この学校では重大な罪なのだ。
このままではまずいと思った陽は、とりあえず真凛を連れ出して場所を移すことにした。
「――それで、どうしたんだ?」
わざわざ彼女が訪れるような問題が何か起きた――もっと言えば、佳純が真凛に何かしたのではないかと不安に駆られながら、陽はそう尋ねる。
すると、真凛は気まずそうに口を開いた。
「その……居心地が悪くて、葉桜君のところに逃げてきちゃいました……」
「居心地が悪い?」
「えっと……私が晴君とお話ししなくなったことと、根本さんの晴君への接し方を見て皆さん察しられたようで……凄く、慰められるのです……」
「あぁ、なるほど……」
どうやら恋に敗れた真凛のことを心配してみんながフォローをしようとしているようだ。
それが真凛にとっては逆に辛く、陽の元に逃げてきたらしい。
(当たり前の流れではあるが、更に状況はややこしくなったな……)
おそらくこの昼休みのうちには全校生徒に佳純と晴喜が付き合い始めたということと、真凛がフリーになったという内容が知れ渡るだろう。
それは現状をどうにかしたい陽にとっては歓迎できないものだった。
何より、真凛にアプローチをする男子が今後極端に増えることはいろんな意味で厄介だ。
「それにしても、俺の元に来たのはなんでだ? 他にも秋実の心情を察してくれる友達はいるんじゃないのか?」
「えっと……魔除け、にさせて頂ければと……」
「…………まじかよ」
魔除け――真凛はそう例えているが、要は男除けになれということらしい。
「か、勝手だとは思いますが、今は葉桜君しか頼れる御方がおらず……!」
「もしかして、既に何件かアプローチが?」
「放課後、十人の方からお話があると誘われております」
「なるほど……」
さすが学校の二大美少女。
フリーになったとわかるや否、既に告白をされる予定が十件もあるらしい。
「それに、これからは休みの日に葉桜君と行動を共にさせて頂くわけですし、少しでも慣れておくほうがいいかなっと……」
「という建前だな?」
「はい、すみません……」
「まぁ、素直に答えたから別にいいが……」
素直に頭を下げた真凛を横目に、陽はどうするか考える。
彼女と学校で行動を共にするということは、それだけ注目を多く集めてしまい、元の関係に戻すことは難しくなっていく。
とはいえ、このまま手をこまねいていると真凛を狙う男子たちがたくさん出てきてしまうわけで――彼女の心のケアは欠かせない以上、それも看過できない。
ここは何に重きを置くかだが――。
陽はチラッと真凛の顔を見る。
すると、彼女はまるで小動物が縋りついてくるような表情で、陽の顔を見上げていた。
どうやら言葉にしている以上に困っているらしい。
となれば、当然無視することなんてできなかった。
(くそ、なんだか柄じゃないことばかりしてるな……)
そんなことを考えながら、陽は口を開く。
「わかった、秋実が助かるなら好きに俺を利用すればいい」
陽がそう伝えると、真凛は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、葉桜君……!」
そうお礼を言ってきた真凛に対して陽はコクリと頷き、その後は二人して食堂へと移動するのだった。
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