第7章 - 2 真実

 2 真実




「何が沖縄よ! 馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ! この娘が飛行機に乗れるとでも思ってるの!? ちょっと考えれば、すぐにでもわかることじゃない!」

 今にも飛びかかってきそうな勢いで、涼太へ向けられた強烈なる言葉だった。

 病室の扉を開けた途端、すぐに優衣の母親に押し戻された。

「沖縄に静養!? 信じてるんじゃないわよ! あなたはどこまでバカなのよ!?」

 今頃ノコノコやってきて……こんな感じをさんざん言われて、涼太は涼太で必死になって訴えたのだ。

「でも、お父さんから、優衣さんは沖縄に行くって」

「そう言うように頼まれたからでしょうが! こっちだって、こっちだって仕方なかったのよ! まったく! あなたが現れてから、あの子は無理ばっかりして、とうとうあんなになっちゃったわよ、とうとう……いったい、どうしてくれるのよ……」

 病室の外で、美穂はそのまま泣き崩れてしまった。

 ――あんなに、なっちゃったって? 

 そんな疑問が渦を巻き、それを声にしようとした時だった。

「涼太くん」

 急に名前を呼ばれ、彼は驚いて振り向いたのだ。

 するといつの間にか扉が開いていて、そこに優衣の父、秀幸が立っている。

彼はなんとも弱々しい感じに右手を振り上げ、それを微かに左右へと振った。

 それから「どうぞ」とでもいうように、その身体を横へ動かし、病室への道をあけてくれる。

 そうして、まるで吸い込まれていくように涼太の足は病室へと向いた。

 秀幸とすれ違い、その瞬間に何かを彼は囁いたのだ。

「ありがとう」だったのか?

 もしかしたらぜんぜん違う言葉であったのかもしれない。

 ただどっちにしても、涼太の心にどんな言葉も届かなかった。

 足を踏み入れた途端に、心に浮かび上がった思念があまりに強烈だったからだ。

 そこに、確かに優衣はいた。

 見たこともないような機械に囲まれて、顔にも何かがのっている。

 それが酸素マスクだと気が付いた瞬間、彼は心で叫んだのだった。

 嘘だ!

 嘘だ!

 嘘だ!!

 しかし見ている光景は現実で、唯一の希望はここがいつもと変わらぬ病室だということだけだ。

 だから彼は大声を出した。

 心の疑問を思うまま、すぐそばに立つ医師へと聞いたのだった。

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