第5章 - 4 富士山(4)
4 富士山(4)
しばらくして拍手が大方収まると、彼らは二人に近付いてきて、
「おめでとう……念願叶って、本当に、良かったね」
そんな感じを口々言って、抱えていたリュックを二人に向けて差し出した。
そんな彼らの惜しみない拍手も、やはり二人に向けてのものに違いなかった。
しかし優衣にしてみれば、涼太への賛辞以外の何物でもない。
――ありがとう、ございます……。
だから素直にそう思え、隣で困った顔を見せる涼太を心の底から誇らしく思った。
そして拍手こそほとんど収まっていたが、まだまだたくさんのハイカーたちが二人のことを見つめている。
そんな彼らへ、優衣がいきなり頭を下げた。
そうする彼女を前にして、涼太も慌ててそれに習う。
するとそんな二人に、止み掛けていた拍手がまたあちこちで鳴り響くのだ。
「やっぱ俺、ちょっと恥ずかしい」
それは、頭を下げたままでの声だった。
「参った……今すぐここから逃げ出したいよ」
顔を上げ、そう言って頭を掻いた涼太へ、優衣もゆっくり顔を上げ、笑顔を見せて告げるのだった。
「でも、涼太くんは、逃げ出さないでしょ?」
その顔は嬉しさに溢れ、それでいてどこか悪戯っぽい印象がある。
「そう言えば、なんで一緒に居てくれるのか……わたしまだ、ちゃんと答えを聞いてなかったね?」
優衣はそう言ってから、急に真面目な顔を見せるのだった。
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