第3章 - 1 再会、そして……(2)
1 再会、そして……(2)
そうして次の日、彼がいつもの場所へ姿を見せると、そこに車椅子姿の優衣がいる。
その後ろには夏川麻衣子が立っていて、恥ずかしそうにしている優衣とは違い、その顔はなんとも嬉しそうだ。
当然、そんなシーンは予想外で気恥ずかしい。
――おいおい、まさか二人して見てる気かよ!?
なんて事が気になって、なかなかスタートするタイミングがつかめない。それでもなんとか意を決し、始めてみればなんてことはなかった。
あっという間に気にならなくなって、ふと見れば、麻衣子の姿はなくなっている。
一方、車椅子の優衣はさっきまでとは別人だ。嬉しそうな顔して手を握りしめ、それでも涼太の視線に気付いた途端、すぐに下を向いてしまうのだ。
そんな姿を目にして、涼太の心にほんの少しの余裕が生まれる。
地面にあったボールを抱えて、
「なあ……」
思わずそう言っていた。
――病気なの?
――……うん、
――どこ? どこが、悪いの?
――心臓なの、心臓が、少し悪くて……。
昨日病室で、交わした会話はこれだけだった。
それからこの後の言葉が出て来ずに、彼は呆気ないくらいに声にしていた。
「看護師さんに言われてるから、俺、ナースセンターに、ちょっと行くわ」
だからもし、次に会うことがあったなら、こう言おう、ああも言おうなどと結構いろいろ考えたのだ。
「ホントはさ、俺、永井のこと、前から知ってたんだ」
だから思った通りにそう告げて、そうしてその後すぐに、
――実は俺、小学校で一緒だったんだぜ。
そう続けようと、二、三歩優衣の方へと近付いた。ところが寸前、優衣がやっぱり恥ずかしそうに、それでもしっかり彼を見つめて言ったのだった。
「知ってるよ、だって、おんなじクラスだったじゃない……?」
「そう、そう……」
――なんだよ、知ってたのか……。
「俺、こんなだからさ、きっとわからないだろうなって、思っちゃってさ」
「すぐにわかったよ、最初、お母さんと受付にいたでしょ? あの時、わたしすぐにわかったんだ……だって、顔はぜんぜん変わってないもの」
汚れたチェックのシャツに擦り切れたジーンズ、そして耳が完全に隠れる茶髪であっても、優衣は吉崎涼太だとすぐにわかった。
さらにそんな出会いに驚いて、病室に戻ろうとしたところで彼女の体力は尽き果てる。
それからお互いのことをいろいろ話し、あっという間に時間が経った。
そうしていきなり声が響いて、二人はそんな事実にやっとのことで気付くのだった。
「ちょっと、こんなところでいつまで喋ってるの? 優衣ちゃんも、ダメじゃない、検査の時間忘れちゃった?」
見ればやっぱり夏川女史が立っていて、二人は知らぬ間に、二時間以上も話し続けていたらしい。
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